(48)
「終わった……」
小一時間をかけてようやく本を棚に戻し終えたディドは一つ息を吐くと、アシュレーもいい加減手伝いを終えているだろうと扉に向かう。
途中、ふと一冊の本の背表紙が目に飛び込んできた。
それはまるで、ディドを呼ぶかの様に……
古いこげ茶の革表紙に金箔の文字。
『Gate Keeper』
ディドは吸い寄せられるかのようにその本に手を伸ばした。
「こんなとこにいたのか」
「!」
ビクッっと体を震わせ、伸ばした手をとっさに引っ込める。
「よかった…… またどっか行っちゃったんじゃないかって心配したんだぞ」
「ア、アシュレー」
「ん? どうかしたのか?」
「どっかにって、手伝って来いって言ったのはそっちじゃない!」
未だバクバク脈打つ心臓を落ち着かせながら、ディドは足早に部屋を出ようとした。
なぜだかその本をアシュレーに見られたくなかった。
自分が何者であるかが知れれば、利用しようと態度を変えるかもしれない。
楽園への切符を手に入れたいがために、ゲートキーパーだから優しく扱われる。
ディドはアシュレーがそうなることが怖かった。
それにもし、あの化け物の様な強大な力のことを知ったら……?
王宮の惨劇もディドの仕業だと気付くかもしれない。 そうしたらいくら彼でも自分を突き放すに違いない。
(お願い気付かないで)
ディドは祈るように歩き続けた。
ところが、
「ゲートキーパー」
アシュレーはつぶやく様にその言葉を口にしたのだった。
ディドは思わず立ち止まる。
「ゲートキーパーか。 君はこれなんだろ?」
「え!? ど、どうして……」
「王都で見たお触れに書いてあったんだ。 その少女は”門番”だって。 たぶん、君のことなんじゃないかって思って。 そのせいで追われてるんだろ?」
「…………」
「あ、ごめん…… その、知られたくないことだったなら謝るよ」
一瞬にして瞳に“闇”を宿したディドに、アシュレーはうろたえた。
嫌な沈黙が続く。
と、それを打破するように軽快な声が割り込んできた。
「やだ、こんな辛気臭いところにいたのね?」
どきりとして背筋が伸びる。
二人揃って勢いよく振り返ると、ミーチェが不思議そうな顔で二人を眺めていた。