(47)
「なぁ、これはこっちに置けば良いのか?」
「そう、そこそこ。 青いのの隣ね」
翌朝アシュレーはミーチェの店で開店の準備を手伝っていた。
丸めた絨毯を両腕で一度に抱え、店先へと運び出す。
「アシュレー、次はこっちもお願い!」
「了解!」
「丁度人手不足だったから大助かりだわ♪ アシュレーって強い上に優しいのね」
「何、これくらいお安い御用さ。 泊めてもらったんだから働かないとな」
右へ左へとテキパキと動くアシュレーに向かって、ミーチェは満面の笑みで指示を出す。
遅れて目覚め、二人のやりとりを遠目に見ていたディドは、最後の絨毯を抱えて通り過ぎようとしたアシュレーの服をすばやく掴んだ。
「何してるのよ」
「何って、開店の準備の手伝いだけど?」
「なに呑気なことしてるの!? 私達は追われているのよ!?」
「それはそうだけど、お礼くらいしないとな。 ほら、ディドも見ているだけじゃなくて、手伝わないか?」
「そんなことして追っ手に見つかったりしたらどうするのよ……」
言いながらディドは虚しくなっていた。
追われる身なのはアシュレーじゃない、自分一人なのだ。
「ん? ……まぁ、その時は何とかするから。 それよりもほら、あそこ。 あの店の前で掃除してるのリンツだろ。 宝飾店だって言ってたし、手伝いついでに店内を見せてもらったらどうだ? ほら、女の子ってそういうの好きだろ?」
「興味ないわ」
「そうなのか? でもまあ、気分転換になるかもしれないし」
「もう、いい」
ディドは頬を膨らませると俯いたままリンツの下へと歩いていった。
リンツに近づくと、彼はぶっきらぼうに挨拶をしてきた。
しかし、それ以外は口を開かない。
彼女は短い沈黙の末、少し悩んで先に口を開くことにした。
「掃除、手伝うわ」
「……いいよ、そんなの。 君は客なんだし、僕は家の手伝いをするために学校を休んでいるんだから」
「でも昨日お世話になったお礼をしたいの。 それに今、手持ち無沙汰なのよ」
ちらりとアシュレーに目を向けると、リンツも同じように視線を動かし小さく息を吐いた。
「そう、なら…… 外は良いから中を頼むよ。 店の奥の書庫が散らかっているんだ」
「宝飾店に書庫があるの?」
「まぁね、でも売り物じゃないよ。 親たちが趣味で集めた本なんだ。 なかなか手が回らなくて手付かず状態。 充分時間は潰せると思うよ」
「解ったわ」
ディドは言われたとおり店の奥へと進み書庫へと向かった。
薄暗い通路を通り書庫に足を踏み入れると、商家には不似合いなほどの大きな棚と本が目に飛び込んできた。
(すごい数……)
良く見ると本棚だけでなく床やテーブルにも散乱している。
(こ、これは片付け甲斐がありそうね……)
苦笑いを浮かべなら埃を払って本を棚に戻す。
手に取る本は色々な街や村の伝承、魔術書、動物や植物など、見たこと聞いたこともないようなものがほとんどだった。
(知らない本ばかり…… 気になるけど、人の物だから勝手に見たりしちゃダメよね)
何より読み出すと掃除が疎かになってしまう。
まずは片付けてから。 そう思いながらディドは再び同じ作業を繰り返した。