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彼の言葉にティエルモンは一瞬言葉を失った。
「今、何と…… その話は本当なのですか!?」
「本当でなければ、謹慎中に貴女の前に現れたりしませんよ。 気付いているのでしょう? ただならぬ事が起きているのだと」
「ええ、そうね……」
彼女は言葉を濁した。 彼が口にした言葉は予測をはるかに上回っていたからだ。
思案の末、ティエルモンは一つの条件を出した。
「わかりました、協力しましょう。 そのかわり、ゲートキーパーの保護が無事にできたのなら……」
「ええ、もちろん。 ゲートキーパーの力で貴女の願いも叶えることを約束いたしましょう」
「その言葉お忘れなきように」
「では、この取引きは成立。 それでよろしいですか?」
静かに頷く彼女にサリュエルは満足げな笑みを浮かべた。
「詳しい話は明日、あらためてお屋敷の方でさせていただきますので、今日はこれにて失礼を」
「ええ。 部屋を用意しておきましょう」
「それでは、良い夢を……」
サリュエルがお辞儀をすると一陣の風が吹きぬけ、舞い上がる白い羽に包まれるかのように彼は姿を消した。
ティエルモンは彼の気配が消えた後、ふと窓辺に視線を移した。
窓辺にはいつからいたのか1羽の青い小鳥がとまっている。
「オルト」
ティエルモンが呼びかけに答えるかのように羽ばたくと、小鳥の姿は消え変わりに長身の男性が現れた。
「あの男を見張りなさい」
「姉上はあの者を疑っておいでか?」
「ええ、あの男は油断ならない。 王が臥せっているのをいいことに王女に取り入っているとも聞いているわ。 それに、謹慎中の身で抜け出してきた者をそう簡単に信じるわけにはいかないでしょう」
「承知しました。 では」
再び小鳥に姿を変えようとしたオルトをティエルモンは呼び止めた。
「……ただし、無理は禁物です。 危険が迫ったのなら逃げなさい。 あの男は強いわ。 仮にも宮廷魔術師の長クヴァル老の愛弟子。 その実力は我ら名家の者をしのぐほど」
「心しておきます。 では、これにて」
窓から飛び立っていく青い小鳥を見送りながら、ティエルモンは弟の無事を静かに祈ったのだった。