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「……なんで?」
ディドの鋭い視線の先には苦笑いを浮かべたアシュレーが座っている。
昼間、魔術師の少年少女に奇襲された二人は、今、他でもないその少女の家に招かれているのだ。
天井や柱に描かれた色鮮やかな幾何学模様、それに対比した白い土壁。
小さな宴が開けそうな一室でミーチェの家族と長い食卓を囲んでいた。
一番奥の席に腰を下ろしいるのが父親だろう。
中年の割には身体は締まり、少し焼けた肌に逞しさが感じられる。
食事を運ぶ長い髪の女性、おそらくこちらはミーチェの母だ。
ミーチェと同じ髪色で、顔もどことなく似ている。もっぱら母親は快活というより知的な印象が強い。
二人ともかなりの魔術師なのは、隠しもしない魔力で感じ取ることができた。
「何ていうか、その……成り行きってやつかな?」
「成り行きでのんびりしてる暇なんてないはずよ! それに貴方は勝手にパートナーにされそうになっているのよ!?」
「まぁ、そうだけど。 とりあえずタダで飯食わしてくれるって言うし、泊まる部屋も用意してくれるみたいだし……」
「罠かもしれないじゃない」
「大丈夫だろ。 壁を壊して突き進んでくるような子だ。 そんな卑怯なことしないさ。 それに何より人様の好意を無駄にしたらそれこそ罰が当たるって」
だろ?と爽やかに笑うアシュレーに、ディドはまた頬を膨らませた。
二人が小声で言い合っている間にも、食卓には出来立ての料理が次々並べられていく。
中にはディドが初めて見るものも何品かあり興味をそそられた。
食事を全て並べ終えると母親が娘に声をかける。
「ミーチェ、お婆様を呼んで来てちょうだい」
「はい、ママ」
別人の様に可憐に返事をしたミーチェは、静かに席を立つと祖母を呼びに部屋を出て行く。
やがて足音が遠ざかると、それまで黙っていた彼女の父がおもむろに口を開いた。
「うちのミーチェを負かしたそうじゃないか。 君は若いのになかなかやるな」
「いや、それほどでも」
「娘のことだ、さぞ悔しがっていただろう?」
「まぁ、そうですね……」
まさか「パートナーにしたいと言われました」とは言えず、アシュレーは愛想笑いでごまかす。
返事に困っていると、ちょうどミーチェが戻ってきた。
彼女が席に着くと、遅れて入ってきた老婆もゆっくりとした歩みで席に着く。
ディドは驚いた。
ふと目の前に居たディドと目が合うと、みるみるその目を丸くしたのだ。
「これはまた……今日は客人が来ておると聞いていたが、まさかイオ様じゃったとは!」
「え!?……イオって……違います!私は……」
「お婆様、違いますよ。彼女は旅人のディドさん。ミーチェがいろいろお世話になったようでね」
「……おや、違うのかね。てっきりイオ様が戻られたのかと思ったわい」