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1本ではない。
その数、数十……いや、百近く。
足の踏み場も無いとはまさにこのこと。
アシュレーには次に踏み出す一歩の足場すら与えられなかった。
「捕らえたわ! これでとどめよ!」
ミーチェはここぞとばかりに渾身の一撃を彼目掛けて叩き込む。
ディドの目の前で轟音と共に砕けた氷塊が辺りに飛び散り視界を遮った。
「ア、シュレー? うそ……」
「まともに食らったんだもの、流石にもう起き上がれないわね」
キラキラと舞い輝く氷の塵を見つめながら、ミーチェはは嬉々と目を輝かせていた。
勝負あったと誰もが思ったその時、ミーチェのすぐ後ろで声がした。
「流石に今のは危なかった」
「うそ!いつの間に!?」
慌てて飛びのこうとするが、アシュレーの方が僅かに速い。 ミーチェの腕をがしっと捕まえた。
「油断禁物」
「このっ! 放してよ!」
「はいはい、動かない。 動くと危ないよ」
強引に振り解こうとするが腕力ではとても敵わない。
気づくと羽交い締めにされ剣の切っ先を喉元に突き付けられていた。
「ミーチェ!!」
「だめ、リンツ! これは私の戦いよ。 手を出さないで!」
少女の危機に血相を変えた少年を、当の本人が突っぱねる。 そして……
「……この勝負、私の負けだわ」
口を尖らせながら少女は呟いた。
その言葉にアシュレーは手を放し、剣を鞘へと収めると、
「君はとんでもない魔術師だよ、正直ちょっと見くびってた」
そう不満顔の少女に笑いかけた。
「私もよ。 剣士に負けるなんて思ってもみなかった。 あなたやっぱり強いわ」
少女も笑顔で言葉を返す。
「それじゃあ、約束どおり先に行かせてもらうよ」
「だめよ」
「なっ!? それじゃ約束と違うだろ!?」
「私、あなたしか狙わないとは言ったけど、素直に立ち去ると言ったつもりはないわ。 それに……」
ミーチェは満面の笑みでアシュレーを見つめると、
「私、あなたのこと気に入っちゃったみたい。 剣士なんて正直興味なかったんだけど、だってあなた強いし、よく見るとほらイケメンじゃない。 今度は私のパートナーになってくれるまで逃がさないから♪」
「な、なんだってーーー!?」
目を見開いて驚く二人を見て、ミーチェは不適に微笑んでいた。