(41)
「ちょっと、ミーチェ! なんでそうなるんだよ!」
「うるさいわね! リンツは黙ってて!」
「……あのさ、俺も魔法は使えないんだけど。 頼むから他を当たってくれないかな?」
「い・や・よ。別に魔術師じゃなくたっていいわ。 あなた強かったし、もう決めたの。 私と勝負するまで逃がさないから」
どうやら彼女は本気のようだ。
いつでも術を発動できる体勢でいることが同じ魔術師であるディドには解った。
(どうすれば……)
ディドが思い悩む中、アシュレーは小さく溜息をつくと剣を握りなおして前に進み出た。
「女の子相手に気が進まないんだけど。 素直には引いてはくれないわけね」
「やった♪ やっとその気になってくれたのね」
「ただし条件がある」
「条件?」
「この子には手を出さないと約束してほしい。 それから俺が勝ったら黙ってこの場を立ち去ることも」
「いいわよ、あなたしか狙わない。 戦えない子に興味ないもの」
「ありがとう、そういってもらえて安心したよ」
そう言うと、再び小さく息を吐いた。
「さて剣士と魔術師、決着はどうする?」
「そんなの簡単よ、どちらかが負けを認めるまでやりあうの」
「やりあうって……君、可愛い顔して物騒なこと言うね」
「可愛いなんて、ありがとう♪ でもね…… 女だと思って甘く見てる後悔するわよっ!!」
言い終わるや否やミーチェはアシュレーとの間合いを取り、すかさず魔力を集中させる。
「アシュレー!」
ディドは思わず叫んでいた。
アシュレーが強いのは知っている。 それでも彼女の魔力に一人で向かうなんて無茶だ。
(私が戦えさえすれば……)
もう一度集中してはみるが、やはり魔法は使えない。
力はあるのに何もできない自分がもどかしかった。
「ちょっ! 合図無しで始めるなんてズルくないか?」
「細かいこと気にしないの! 男でしょ?」
「そういう問題じゃ……」
彼女の周囲には氷の礫が生まれ、見る見るうちに大きな塊へと成長していく。
アシュレーは慌てて彼女との間合いを詰めた。
「呆れた。 真正面から突っ込んでくるなんて、狙って下さいっていっているようなものじゃない。 一撃で終わらせてあげるんだから!」
ミーチェが手を振ると氷塊がアシュレーめがけて一斉に襲い掛かる。
アシュレーはそれを紙一重でかわしながら更に距離をつめた。
「うそ!? あれを全部かわすだなんて! ……でも、まだまだこれからよ!!!」
ミーチェも負けじと後方へ跳び退き、両手を地面に着けて言葉を紡いだ。
ドーーーーーッン!!!
その直後、大きな音とともに氷柱が地中から突き出した。