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「やだ、忘れてたわ」
「なんだ、まだ逃げてなかったのか。 案外間抜けなんだな」
「いや、あの…… で、君達はなんなの? 王都の追っ手ってわけじゃなさそうだけど、場合によってはタダで帰すわけにはいかないからさ」
その言葉にディドは自分の置かれた状況を思い出した。
肩を出した服にミニスカートの活発で破天荒そうな少女と、対照的にいかにも魔術師らしい服を着た優等生タイプの少年。
自分と同じくらいの歳だろうか。 彼らがもし追っ手ならば逃げるために戦わなければいけないことになる。
ふと、少女と目が合った。
「なんで使わないの?」
「……え?」
「まぁ、いいわ。 私はミーチェ。 このティエルモンで1番の天才少女よ♪ で、こっちが幼なじみのリンツ。 あ、リンツは2番目ね」
「なんで僕が2番!?」
「うるさい! それで、よっと」
上ったばかりの壁から飛び降りるとディドを指差してにっこり笑う。
「待ってたの、あなたみたいな魔術師。 私と勝負しましょ」
「!」
「待て。 君たちは何が目的なんだ?」
今にも攻撃魔法を唱えそうなミーチェからディドを庇うように、アシュレーが前に進み出る。
「目的? だから、手合わせに決まってるじゃない。 強い魔術師と勝負して、勝つ! 自分の力を試す! それ以外に何があるの?」
「この街でそんなことが流行っているなんて知らなかったよ……」
「ティエルモンは王都とかとは違って、実践で学んでいくの。 だから、こんなのよくあることよ」
アシュレーは軽い溜め息をついた。
「でも、悪いけど応じられない」
「なんで?」
「彼女は魔法なんて使えない」
「嘘」
「嘘じゃない。 使えるなら、とっくに使ってるはずだろ?」
「……じゃあ、あの魔力は何よ。確かに感じたんだから!」
「きっと何かの勘違いだ。 少なくとも俺は使ってるところを見たことがない」
「そんなはずない! あなたぜーったい魔術師でしょ?」
(私は………)
喉まで出かかった言葉はアシュレーの言葉に遮られた。
「とりあえず、俺たちは急いでいるんだ。 これ以上君たちの相手をしている訳にはいかない。 魔術師じゃないならもう用はないだろ?」
「そういう訳にはいかないわ」
ディドとアシュレーが足を踏み出した時、またもや目の前に氷の柱が突き抜けた。
「勘違いした上、ここで引くなんて天才としての恥よ。 その子が戦えないならあなたが私と勝負しなさい!!」