(39)
「何者だ!! 何で俺たちを付け狙う!!」
馬乗りになり鋭い声で相手を威嚇するが、押さえつける左手には思いがけない柔らかさがあった。
「……?」
「アシュレー、上!!」
その時、岩でできた槍が何本もアシュレーに襲い掛かってきた。
「え!? ちょっ…… おわっ!」
慌てて相手から飛び退くと剣で槍を叩き落す。
「ミーチェから手を放せ! この変態野郎!」
頭上から浴びせられたその声にアシュレーは目を丸くした。
「こ、子供!?」
アシュレーが見上げた声の主は、まだ15、6くらいの少年だった。 サラリとなびく銀のボブヘアーが印象的だ。
「リンツ!」
ハッとして今度は近くで聞こえた声の主を見て更に目を丸くする。
目の前で起き上がった相手はディドほどの少女だった。
見事なプラチナブロンドの髪をなびかせてアシュレーを真っ直ぐ見据える。
「後ろ!」
アシュレーが気を取られている間に少年が駆けつけてくるのが見えディドは叫んだ。
少年に目を向けたわずかな隙に少女は、するりとアシュレーの元を逃れ少年に駆け寄る。
「ちょっとリンツ! 邪魔しないでよ!!!」
「邪魔って…… だってミーチェ、危なかったじゃないか!」
「あんなの平気よ、どうってことないわ。 あ〜もういいところだったのにぃ〜」
「なんだよそれ、助けてあげたのに! 大体ミーチェはいつも」
「わぁーもう、またお説教!? そんなのママだけで十分よ!」
「ミーチェ!!!」
耳を抑えながら壁の上に飛び移る少女と、少女を叱り付ける少年。
敵を目の前になんとも滑稽なやりとりだ。
勝手な仲間割れで盛り上がる二人をディドもアシュレーも呆気にとられて見守ってしまっていた。
「あのさ。 彼、せっかく助けてくれたんだから、お礼くらい言った方がいいんじゃないかな?」
間抜けにもアシュレーが声をかけてしまうと2人は同時にアシュレーに目を向けた。