(2)
魔法学校では午前に魔法に関する知識を学び、午後からは実技の実習を受ける。
朝早くから夕方までびっしりと講義を受けた後は、どっさりと出される宿題を寮でこなす。
宮廷魔術師になるためには、どれも欠かすことの出来ない大切なことだ。
だが、勉強はまだいい。
競争の激しい学校での人間関係はそれ以上に難しい。
特にディドにとっては。
田舎の森で静かに暮らしていたディドにとって、今朝の一件は初めての経験だった。
下賎だといわれたことは衝撃と言ってもいい。
黒髪って野蛮なの?
心に何か引っかかるものがあるが、それが何なのかまだ良くわからない。
「まぁ、あいつのことなんて気にしなくてもいいんじゃない?」
食堂でフォルナは、心を見透かしたように話しかけてくる。
「え?」
「シェリルのこと考えてたんでしょ? 顔に出てるよ」
「………出てるかな」
ディドは反射的に顔を抑える。
「出てる、出てる! それに加えて自分の髪の色を気にしてる。 そうでしょ?」
「なっ…////! 何で解るの!?」
ずばり言い当てられて恥ずかしくなる。
「私ってそういうこと読み取るの得意なんだよね〜」
「え? 何? それって新しい魔法なの?」
「まさか! 女の勘よ」
「……おんなのかん??」
「そう、女の勘! ディドちゃんにはまだちょっと解らないかな〜」
「なっ…! 私とフォルナは一歳しか違わないわ!」
珍しく頬を膨らますディドを見て、フォルナは声をあげて笑った。
「そうそう、ディドちゃんはそういう顔の方が可愛くて似合ってるわ! まぁ確かに、黒髪は王都では珍しい色だけど、気にすることないわよ。 神女のイオ様みたいでとっても素敵よ。 だからほら。 元気出して午後の実習に行こ! 昼休み終わっちゃうよ!」
何処か、はぐらかされた感じはするが、屈託のないフォルナの笑顔を見ると自然と笑みを返してしまう。
ディドは食堂を発つと、彼女と一緒に校内の実技練習場へと向かった。
「ところでディドちゃん。 今度の休校日はどうするの? 何か予定ある?」
「今度の休校日はサリュと街へ出かけてみようと思うの」
「サリュ? ……彼氏?」
「ちっ////違うわよ! サリュエル・ニーズ! 私の育ての親で…」
と、ディドが言葉を切る。
フォルナの様子がどうも変だ。
どうしたのかと彼女の顔を覗き込むと、突然彼女は目の色を変えて詰め寄ってきた。
「もしかして、あの容姿端麗・才色兼備の宮廷魔術師サリュエル様!?」
「……男性に対してその言葉は使わないわ」
「そんなこと今はどうでも良いの! で、どうなの、サリュエル様なの!?」
「サリュは王宮で働いていると言っていたし、たぶんそうだと思う」
その言葉を聞いてフォルナはいよいよ舞い上がった。
「本当なのね!? 育ての親って何で黙ってたのよ〜 ねぇ、ディド、その日は二人で王宮に行かない?
月に一度の休校日は王宮の解放日でもあるの! そこでサリュエル様に会わせて! 私、サリュエル様の大ファンなのよ〜」
フォルナはそう言いながら、ディドの手を握り上下にブンブン振り回す。
「フォルナ、手、痛い!」
「ねぇ、お願い!」
「わ、解ったから、早く放して」
「やったー♪ ディド約束したからね! 絶対よ!」
「そんなに心配しなくても大丈夫だから」
ディドは痛みの残る手をさすりながら、ため息混じりにつぶやいた。
「その日は三人で街でお買い物して、お茶をして…… わあ! なんて最高なの! あぁ、そうだ! 何を着ていこうかな。 サリュエル様にお見せできるような服を見繕わなきゃ!」
「フォルナ? 練習場はそっちじゃないわ」
ディドが注意を促すも、浮かれた彼女にはまったく届いていない。
しかたなく彼女を置き去りにして先に練習場に向かったディドは、数分後遅れてやってきたフォルナが講師にこっぴどく叱られる場面を見ることとなる。