(37)
つけられていると解ると、二人の足並みは自然と小走りになる。
人通りの多い路地を選び人の波を縫うように歩いたが、それでも追っ手の気配は消えない。
「どうするの? まだ追いかけて来てる」
膨れ上がる焦燥感からディドは思わず問いかける。
何かの勘違いだと期待をしていたアシュレーも、流石にここまでくると放っておくわけにはいかないと感じたのだろう。
小声で追っ手を撒こうと提案した。
「あそこの細い路地を右手に曲がって追っ手を撒く。 合図をしたら全力で走ってくれ」
「わ、わかったわ」
小さく唾を飲み込むとディドは合図を待った。
一方、アシュレーは静かに呼吸を整え人の流れを読んでいた。
そして走り抜けられるわずかな空間を捉えると、彼女の背中をトンっと押した。
ディドが合図に合わせて走り出すと、追っ手の足音も忙しくなった。
アシュレーは一瞬背後に目を配らせて様子を確認した後、続けて走り出す。
が、なかなか撒けない。
「追っ手の野郎、しつこ過ぎるだろ!」
角を何度も曲がり次第に人通りの少ない路地へと入り込む。
迷路のように進んで行った先には………
「アシュレー! この先行き止まり!」
「なっ!?」
目の前にはレンガの壁。 左右に首を振るが他に道はない。
アシュレーはおもわず絶句したが、のんびり呆けている場合ではない。
「ディド、そのまま動くなよ!」
「え?」
ディドはフワッとした感覚に襲われたかと思うと次の瞬間には宙を舞っていた。
後方からやってきたアシュレーが走りながら彼女を抱きかかえると、壁に足をかけて一気に跳躍したのだ。
「大丈夫か?」
彼の一声で我に返ると、自分が思わず悲鳴を上げ相手にしがみついていることに気が付いたディドは、その腕を引き剥がすようにして飛び降りた。
「ちょ!! いきなり何するのよ!」
「ごめんごめん、でもこうでもしないと壁越えられなかっただろ?」
「だからって!!」
顔を真っ赤にして怒るディドに対してアシュレーはいつものニコニコ顔だ。
しかし後方でけたたましい爆音が鳴り響き、同時にレンガが崩れる音が聞こえてくる。
「まさか……」
彼は表情を強張らせた。