(33)
「今朝出回った王宮のお触れ、知らない訳ないよな? 俺はその人間をあんたがこの馬車に連れ込むのを見たんだ。
金の前に命が欲しかったら、素直に引き渡すことだ。 もちろん騒いだら殺す」
「な、何のことだか……」
(意外としぶといな…… まあ、しかたないか)
軽く息を吐きアシュレーは気の乗らない最終手段に打って出た。
「まぁ、いいや。 お触れには、"少女を傷つけるな"とは書いてあったが、それを連れてくる人間を傷つけるなとは一言も書いていなかった。
……この意味、解るよな?」
語気を強めるのと同時に刃を更に強く押し当てる。
男の喉下にはうっすらと赤い筋が走った。
「ひっ!」
かすかな痛みを感じて男は震え上がる。
一気に冷汗を吹かせながら、遂に荷物を手放す決心をした。
「わ、わかった。 言うとおりにする。 あの子は引き渡す! だから頼む、助けてくれっ!!!」
「最初からそうすれば良いんだよ」
ぼそっとつぶやくと剣の柄で打ち気絶させた。
「おっちゃん、ごめんな」
崩れる男に謝りながら、アシュレーは荷台の中へと急いだ。
真っ暗な荷台の中、木箱の間に隠れるかのように少女は静かに横たわっていた。
見れば両手両足を縛られ、口には猿轡を噛まされている。
「おい! 大丈夫か?」
軽くゆすり頬を叩こうとすると、彼女はそれよりも早く目を開いた。
「良かった、意識はあったみたいだな」
怪我も無く無事なことに安堵し、アシュレーは少女の後ろへと回り猿轡に手をかけた。
「待ってな、直ぐに解いてやるから」
猿轡を解き、続けて手の縄を解く。
最後に枷となっている足の縄を解いて手を差し延べる。
「よしっと。 立てるか?」
「……」
「どうした? どこか怪我でも……」
「どこへ連れて行くつもり?」
「え?」
予想外の言葉にアシュレーは戸惑った。
拒絶されるとは思っていなかったのだ。
「どこって、とりあえず安全なところへ行かないと」
ほら、と少女の腕を取ると、彼女はそれを勢いよく振りほどいた。