(31)
「あの…… ごめんなさい、本当に知らないんです」
「本当に?」
再度力強い視線を向けると彼女は一瞬瞳を泳がせた。
その様子を訝しんだアシュレーは一芝居をうつ。
「まずいな…… あいつまだ小さいから自分の病気がどれだけ恐ろしいのか解っていないんだ。 もし、こんな日差しが強い時間に外に出てしまったら……」
「ど、どうなるんですか?」
頭を抱え困った振りを見せると、彼女は見事につられ不安そうに尋ねてきた。
(よしきた!)
「どうもこうもないよ。 あいつ肌が弱いんだ。 光に当たっただけで酷くただれてしまって……」
「!」
女性は目を丸くし口元を手で覆う。
アシュレーはそんな彼女に向かって畳み掛けた。
「頼むよ! 一緒に妹を探してもらえないか? もし何か思い出したなら……」
「わ、解りました! お手伝いいたします!」
アシュレーが言い終わるのも待たず、彼女は慌ててカウンターから飛び出していく。
彼は焦燥感にかられながらも静かに後を追った。
(頼む、間に合ってくれ!!!)
女性が向かったのは正面のエントランスではなく裏口だった。
先へ進もうとする女性を手で制しお礼を言ってカウンターに戻らせると、自らは慎重に外へと歩み出る。
外からは微かに馬の鳴き声が聞こえてくる。
(裏口に馬? 厩なんてなかったはずだが……)
壁に背を沿わせそっと覗くと、馬車に年配の男が乗り込むところだった。
アシュレーは更に目を凝らし耳をそば立てた。
「それでは少しの間王宮に行ってくる。 このことはくれぐれも他言無用にな」
「かしこまりました」
従者が頷くと男は馬車に乗り込んでいく。
馬に鞭を入れようとしたところで、突然前方からカウンターの女性が駆けつけてきた。
(お姉さん!? まさか、表から回ったのか!?)
彼女が男の耳元で何かを話すと、彼の顔色は見る見るうちに青ざめた。
おそらく先ほどでっち上げた病気のことを告げられたのだろう。
慌てて荷台の幌に頭を突っ込むと何やら唸っていた。