(28)
アシュレーは物思いにふけりながら街を歩いていた。
理由はもちろん昨日匿った彼女にある。
早朝、鳥のさえずりで目覚め、背を預けた扉を開け部屋に入ると、彼女は既に起きていて窓の外を静かに眺めていた。
特に騒ぎ立てることもなかったので落ち着いたのだと胸を撫で下ろしたものの、その悲痛な表情は昨日と何も変わっていなかった。
挨拶をしても返してもらえず、ただ沈黙が続くばかり。
食事をしたいとも言わない。
パンとスープを調達し部屋に運び込むとようやく少しずつ口へと運んでくれた。
腹が満たされれば何かを話すだろうという打算があったわけではない。
しかし食事を終える頃、少女は窓の外を見つめながら小さく呟いた。
「……遠くへ行きたい。 王都じゃないどこかへ……」
消え入りそうなその小さな声をアシュレーは聞き逃さなかった。
ようやく本音を話してくれたことに妙な嬉しさがこみ上げてくる。
嬉々として話しかけようとしたが、彼女の表情に息を飲んだ。
(あの目だ……)
この時、彼の中ではひとつの決意が沸き起こっていた。
俺はあの子の言葉の意味を、あの瞳の理由を知りたい。
そして笑顔を取り戻してあげたい。
あの子は王兵から逃げていた。 ならばその手がかりはきっと王宮にあるはず。
いつになく真剣な表情で街を歩く彼に、彼をよく知る者たちでさえ声をかけられないでいた。
アシュレーは何度か角を曲がり目抜き通りに出た。
祝日を終えた大通りは幾分人が少ない。
それでも王宮前のメインストリートは大勢の人で溢れかえっている。
人ごみを掻き分け、ようやく王宮の前の広場に辿り着くと立派な城門が目に飛び込んできた。
解放日は昨日まで。
今は警護兵が固く入り口を閉ざしており決して城内に入ることは許されない。
普段なら用がないかぎり人は赴いて来ないだろう。
それなのに今日の広場は多くの人で溢れていた。
(なんだ?)
何かあったのかと訝しみながら近づくと、彼らは一枚の貼り紙に釘付けになっていた。
大きな掲示板に、ひと際大きな貼紙。
その一枚は他の全てを押し退けるように堂々と貼り付けられていた。
上質な羊皮紙には大きな朱印。
それが王宮直属のお触れだと知らしめている。
詔
下記ノ者ヲ献上シタ者ニ褒美ヲ与エ、三年間総テノ税ヲ免除スル。
但シ下記ノ者ニ危害加エル事一切認メズ。
下記ノ者、我々ヲ幸福ニ導ク「門番」也。
記
・・・
・・・・・・
貼り紙に目を通したアシュレーは目を疑った。
(こ、これ、なんて書いてあるんだ? ………この国の言葉だよな??)