(25)
それからしばらく、気まずい沈黙が続いた。
アシュレーは少女が何かしゃべらないかと期待したが、彼女は黙ったままその場から動こうともしなかった。
痺れを切らしたアシュレーは再び彼女に問いかける。
「君さ、何で追われていたの?」
「……」
「食い逃げ? ……なわけないよな」
「……」
「じゃあ、泥棒とか?」
「……ちがう」
「あ! もしかして兵士に悪戯しちゃったとか?」
「何だって良いじゃない! ほっといてよ!!!!」
もの凄い剣幕にアシュレーは思わず口を噤んだ。
剣幕だけじゃない。 彼を睨む瞳に悲痛な色が見て取れたからだ。
そのまま彼女に背を向け扉へ向かう。
「……悪い。 他人に聞かれたくないことぐらい誰にでもあるよな。 もう聞かないからさ、今は抜け出すことなんか考えずにゆっくり休んでくれ。 俺、外で見張ってるから、安心してくれていいよ。 ……それじゃ、おやすみ」
部屋を出ると、静かに扉を閉めた。
扉の外ではジェイドが心配そうに待っていた。
「どうだった?」
「いや、別に……」
「別にってことはないだろう」
「ん、まぁ…… 悪夢見てうなされてただけみたいだ」
「そうか」
ジェイドは気のない返事をするアシュレーを訝しむものの、それ以上の追求はしなかった。
アシュレーが再び腰を下ろすと続いて隣に座る。
「アシュレー、話が折れちまったから改めて言うけど、やっぱりこの件からは手を引こう。 これ以上彼女に関わっていたら、お前は誘拐犯どころか、おそらく反逆者として重い罪を背負わされることになる」
「……」
「おい! 聞いてんのかよ!?」
「聞いてるよ。 聞いてるから考えてるんだ」
「何を」
「彼女のことさ」
ジェイドは言葉に詰まった。
アシュレーのこんな真剣な表情を今まで見たことがあっただろうか。
(なんて顔してやがる)