(24)
「ちょ、待った! 騒ぐなって! 落ち着いて! 人が来ちゃうだろ!?」
「嫌! 近づかないで!」
彼女を押さえ込んで大人しくさせようとしたアシュレーだったが、それよりも早く枕が飛んでくる。
みごと顔面でキャッチすると視界には幾つもの星が瞬いた。
「わ、解った! 俺、何もしないから! 捕まえないし、追いかけない。 だから、頼む! 静かにしてくれ!」
両手を合わせて頭を下げてしばらくすると彼女は急に大人しくなった。
恐る恐る顔を上げると彼女は警戒心剥き出しの表情でこちらをじっと見据えていた。
「……お、大人しくしてくれて、ありがとう」
「そこから動かないで!」
「解った。 動かない。 だから、そんなに睨まないでくれないか?」
苦笑いのアシュレーを一瞥してベッドから降りた少女はさっと身なりを整えはじめる。
「おい、何してるんだよ」
彼女は再度彼の言葉を無視すると入り口へと足を進めようとした。
さすがのアシュレーも、これには動かざるをえない。
「ちょっと待って、今は夜中だって! どこ行く気だよ?」
「動かないでって言ったでしょ!! ……あなたには関係ないわ」
「待ってくれ。 今は出て行かない方が良いって。 ……そ、外には王宮の兵士がいたんだ、それもすごい凶暴な奴が一人。 たぶんまだ……」
「嘘」
「嘘じゃない、ホントだって! だから俺、君をここに匿ったんだ」
「匿った?」
「そうだよ、君が昼間大勢の兵士に追いかけられているのを見かけたからさ」
「余計なことしないで!」
「余計なことなんかじゃないよ。 君困った顔してただろ?」
「私が誰に追われてるのか見たんでしょ? これ以上私に関わらないで」
「そういう訳にはいかない。 目の前に困った人がいるのに放っておけるわけないだろ。 それにどう見たって君が罪人には見えない」
「……何も知らないくせに」
突然俯き、声のトーンが下がった彼女にアシュレーは驚いた。
(何かまずいこと言っちゃったかな?)
「あ、あのさ、ミルク飲む? 暖かくてちょっとは落ち着くと思うぜ?」
「要らない」
「別に、毒なんて入ってないって! 俺、飲んだけど…… ほら、こんなにピンピンしてる」
「あなたが口にした物なんて余計に要らないわ」
「……それはそうだよな」