(23)
「酷い汗だ。 嫌な夢、見てんだな」
アシュレーは呟くと、近くに置いてあったタオルを手に取り少女の額の汗を拭った。
「安心して眠ってくれていいよ。 俺が外で見張ってるから追っ手の心配もいらない」
眠る少女に優しく語りかけ、拭き終えたタオルを置くと扉へと向かう。
ノブに手をかけ開けようとしたその時、突然部屋に大きな声が響いた。
「サリュ!! 待って…… 嫌! 置いて行かないで!! ……お願い……サリュエル!!」
あまりにも悲痛な叫びにアシュレーは慌てて彼女へと駆け戻り肩を揺する。
「おい! 大丈夫か!? 目を覚ませ! それは夢だ!!」
「う……待っ……」
何かに追い縋るように少女の手がアシュレーの首元へと伸びる。
(うわっ!)
チョーカーを捕まれそうになるのを何とかかわし、再びその肩を揺する。
何度も何度も揺すってようやく少女はゆっくりと目を開けた。
「……赤…い、光……?」
ぼんやりと浮かび上がる景色に何かを見たのか、寝ぼけているだけなのか少女は不思議なことを呟く。
「よかった、目を覚ましたか」
アシュレーはホッと胸を撫で下ろす。
が、それもつかの間、今度は目の前に居る見知らぬ男に対して悲鳴を上げた。
「ちょ、待った! 騒ぐなって! 落ち着いて! 人が来ちゃうだろ!?」
「嫌! 近づかないで!」
彼女を押さえ込んで大人しくさせようとしたアシュレーだったが、それよりも早く枕が飛んでくる。
みごと顔面でキャッチすると、視界には幾つもの星が瞬いた。
「わ、解った! 俺、何もしないから! 捕まえないし、追いかけない。 だから、頼む、静かにしてくれ!」
両手を合わせて頭を下げてしばらくすると、彼女は急に大人しくなった。
恐る恐る顔を上げると、彼女は警戒心剥き出しの表情でこちらをじっと見据えていた。
「お、大人しくしてくれて、ありがとう」
「そこから動かないで!」
「解った。 動かない。 だから、そんなに睨まないでくれないか?」
苦笑いのアシュレーを一瞥してベッドから降り、少女はさっと身なりを整えはじめる。
「おい、何してるんだよ」
彼女は再度彼の言葉を無視すると、入り口へと足を進めようとした。
さすがのアシュレーも、これには動かざるをえない。
「ちょっと待って、今は夜中だって! どこ行く気だよ?」
「動かないでって言ったでしょ! ……あなたには関係ないわ」