(21)
気を失った少女を寝泊りしている宿屋に運び込んで、既に半日以上が経っていた。
彼女は一向に目を覚ます気配がない。
宵も深まり静寂の続く廊下でアシュレーは見張りとして部屋の外に腰を下ろし扉に背を預けていた。
視線はじっと一点を見つめている。
ギシ……
何事も無く夜が明ければ良いと考えていた彼の思いとは裏腹に突如その音は生じた。
反射的に立ち上がり腰に帯びた剣の柄を掴むと、いつでも抜剣できる態勢をとる。
階段の軋む音。
それは次第に近づく足音。
(まさか本当に追っ手が?)
息を呑むアシュレーに対し向こうからは聞き覚えのある呑気な声が上がった。
「な〜にやってんだ。 室内で剣を振り回したら危ないだろ」
「……ジェイドか、脅かすなよ。 本当に追っ手が来たのかと思っただろ」
「こんな堂々と足音立てる追っ手がいるかよ。 心配しすぎだ、アシュレー」
笑うジェイドの様子に緊張が解けたのかアシュレーは再び腰を下ろした。
「宿の人にミルクを温めてもらってきたんだ。 飲めよ」
「あぁ、悪いな」
彼からカップを受け取ると、二人同じタイミングで口をつける。
何口か飲んでから一息つくと、ジェイドもアシュレーの隣に腰を下ろした。
「で、どうするんだよ。 彼女をこんなところまで連れてきて」
「さぁ、どうしようか」
「どうしようかって…… 下手したらお前誘拐犯なんだぞ!?」
「わかってるよ。 そんなこと言ったって、彼女は追われてたんだ。 普通助けるだろ?」
「それはそうだけど……」
ジェイドは深いため息をついた。
そのまま黙り込もうとしたが、ふとひとつの疑問が生まれる。
「……彼女は誰から逃げていたんだ?」