(20)
路地の壁に背を着けゆっくりと大通りに顔を出すと、少女たちは予想通りの進路でこちらに向かって来た。
即座に距離と時間を計る。
そして再び顔を引っ込め、心の中で数を数える。
(あと十秒)
アシュレーはひとつ息を吐くとタイミングを見定め、路地から腕を伸ばした。
彼の手は走り抜けようとする彼女の細い腕を見事に捕らえていた。
路地に引きずり込むと、少女は小さな悲鳴を上げ暴れだす。
アシュレーは片手でその口を塞ぐと羽交い絞めにして素早く近くの空樽の中に飛び込んだ。
「手荒でごめん。 けど大丈夫、俺は怪しい人じゃないから」
狭い樽の中で暴れられて兵士に聞きつけられたら隠れた意味が無い。
逃げ出そうと必死に抵抗する彼女を諭すが、この状況はなかなか理解してもらえない。
「お願いだから、今は大人しくしててくれ」
それでも尚、彼女は樽の中で抗おうとするため仕方なく力で押さえ込んだ。
腕と頬に肘を二発もらい流石にもう無理かと思った時、ようやく力尽きたのか彼女は腕の中でぐったりと気を失った。
アシュレーは力を緩めて一つ息を吐き、ゆっくりと樽から顔を出すと周囲に人が居ないことを確認してから一人で外に飛び出した。
彼が慎重に大通りを覗くと、そこには忽然と消えた少女を懸命に探す大勢の兵士たちの姿があった。