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「おや、兄ちゃんじゃないかい!」
青年が大通りを歩いていると、ふいに誰かに声をかけられた。
黒のタンクトップに赤褐色のベスト、腰まで伸びた黒髪が目を引く長身の青年だ。
腰には剣を帯び、服からのぞく逞しい腕は剣士のそれだか、彼のまとう空気は青空のような爽やかさを覚える。
「こっちこっち!」
彼が不思議そうに当たりを見渡すと、果物を並べた露店の奥から恰幅の良いおばさんが手招きをしていた。
「この間は息子が世話になったねぇ」
青年は少し考えた後、先日足を怪我して泣いていた少年を保護したことを思い出す。
「あぁ、おばちゃん! 少年は元気にしているかい?」
「お陰様でね! ほらっ、これを持ってお行き! まだ食べるものに困ってるんだろ?」
「あハハハ…… ありがと〜おばちゃん!」
おばさんが籠に盛っていた林檎をひとつ手にすると、彼に向かってふわりと投げる。
彼はそれを片手で受け取ると直ぐに口に運び、ひとかじりした。
「これは美味いね!」
「だろう?」
おばさんは自慢げに笑うと、またおいでと手を振った。