(14)
「国のため、王女のため、君の力が必要になった」
静かにサリュエルが答える。
「君には、その力でなんとしても国を守ってもらわなければならない。 その力はこの国の剣にも盾にもなる」
「!」
その瞬間、体に電流が走った気がした。
どこまでも冷淡で感情のない声。
目の前の人間が、あの優しいサリュエルと同一人物だと思えなかった。
「私を育ててくれたのは、国に売るため? 優しく微笑んでくれたのは、この力のため……?」
声が震える。
思考が定まらない。
怒りと悲しみが同時に沸き起こってきて、もはや自分が何を言ってるのかさえわからない。
「そうなのね、サリュ!!!!」
ディドの悲痛な叫びは無数の風の刃を生み出していた。
彼女の心境を具現化するように刃が次々と荒れ狂い乱舞すると、彼女を取り押さえようと近づいた兵士に襲い掛かる。
一人の腕を肩から切り落とし、別の兵の胴を真っ二つに引き裂いた。
室内は一瞬で惨劇と化し、多くの悲鳴で溢れかえった。
風の刃が襲い掛かる対象に例外はない。
止まることを知らない刃は容赦なく周囲の人間を次々と巻き込み、ついにはジェノウィーズ王女を捕らえていた。
「王女!」
誰もが立ちすくみ自分の身を護るのに精一杯の中、彼女の悲鳴を聞きつけ動いたのはサリュエルだった。
すばやく彼女の前に躍り出ると右手を前に突き出し魔力を手の平に集中させる。
強力な魔力は盾を生み、襲い来る数多の刃をことごとく左右に往なしていった。
どれだけの風の刃が乱れ飛んだのだろうか、ようやく風の刃が消え謁見の間は嵐が過ぎ去った後のような静寂さを取り戻した。
サリュエルが王女の方へ向き直ると彼の顔を見た王女が思わず声を上げた。
「サリュエル、貴方頬に怪我を!」
彼女に言われて、そっと自分の頬に触れると指先にべっとりと血がついた。
「こんな傷、大したことはありません。 それよりも、貴女様こそお怪我はありませんか?」
「貴方のお陰で大丈夫です、ありがとうサリュエル」
(まさか、これほどまでとはな……)
彼は王女からその視線をディトに移すと、微かに口元に笑みを浮かべた。