(13)
「待ちなさい、ディド! 落ち着くんだ!」
事態の収束を図るサリュエルの声が聞こえていないのか、ディドは扉に向かって走り続ける。
「ディド!!」
彼は再び声を振り絞り叫んだ。
その声にピタッと彼女の動きが止まった。
ゆっくりと振り返ると、その漆黒の瞳は彼だけを捉える。
「サ……リュ……?」
「そうだよ、もう止めるんだ。 ……さぁ、こっちへおいで」
差し出された手にディドは戸惑った。
この手を取っていいものだろうか?
サリュは自分をどうするつもりなのだろう?
言うことを聞かなかった自分を守ってくれるだろうか?
この機を逃すまいと兵士たちが遠巻きに彼女を囲み始めるが、本人はサリュエルを見つめたまま微動だにしない。
もはや彼女の目には彼しか映っていなかった。
ディドは今にも泣き出しそうな表情で叫んだ。
「どうして話したの!? 痣の話をしてはいけないと言ったのはサリュだよ! ゲートキーパーのことも知られてはいけないって!」
サリュエルは口を噤んだまま、じっとディドを見つめている。
「ねぇ、どうして? どうして何も答えてくれないの!? ……答えてよ、サリュ!!!」