(11)
「時にディド。 あなたには不思議な痣があるそうですね。」
「え?」
思わず反射的に左腕の腕輪を触ってしまう。
(どうして知っているの…?)
穏やかに微笑む王女とは対照的に、ディドは明らかに動揺している。
「私に見せてくれないかしら?」
「あの……これは……」
「『ゲートキーパー』の痣、そうですね?」
「!」
王女の言葉にざわめきが起こる。
薄れていた伝承とはいえ、この場にいるのは宮廷の上層部の人間ばかり。
知識の一つとして持っていても不思議はない。
一気に自分に集まる視線を受け、ディドは表情を強張らせた。
「静まりなさい! ディド、そんなに怖がらないで。 このことはサリュエルが話してくれたのですよ」
(サリュエルから聞いた!?)
ディドはその言葉に耳を疑う。
(痣のことは誰にも話してはいけないと、二人だけの秘密だと約束したのはサリュエルなのに……)
彼女の中で疑問は既に衝撃へと変わっていた。
「どうかしら?」
ディドが答えあぐねていると王女は改めて彼女に問うた。
同時に周りに居る大臣の一人が咳払いをして早くしないかとプレッシャーを与えてくる。
一向に返事をしないディドに周りの様子が怪しくなり始めた時、サリュエルは耐えかねてディドに話しかけた。
「ディド、王女様のお望みだ。ほんの少しでも良いからお見せしよう。 王女様は決して悪いようにはしないお方だからお話したんだよ」
(たしかにそうかもしれない。 でも……)
無意識に手は左腕にはめた銀細工の装飾に触れていた。
幅広のリングの中央には小さな赤い石がはめ込まれている。
学校へ通いだす前、誕生日のお祝いにサリュエルが贈ってくれた腕輪。
痣を隠すために決して外さないようにと約束した物。
(でも! サリュエルが勝手に約束を破るだなんて!)
「早くせぬか!」
彼女が戸惑っていると、痺れをきらした大臣が荒々しく声を上げた。
苛立ちの矛先は彼女の育ての親にも向けられる。
「サリュエル、君は躾という言葉を知っているのかね?」
「申し訳ありません、大臣」
静かに頭を下げるサリュエルの姿を見てハッとした。
(このままじゃサリュエルに迷惑がかかる!)
ディドはついに意を決した。
手が震えだすのを必死でこらえ、一歩ずつ王女へと歩みよる。
そして段の手前まで進むと、ぐっと腕輪を掴んで下へと引っ張ろうとした。
……その時