(10)
ディドとサリュエルが大きな扉の前に立つと、扉は大きな音を立ててゆっくりと開いた。
目の前に広がる厳かな雰囲気に、緊張で体が強張るのがわかる。
両サイドには衛兵や宮廷魔術師たち。
そして、その間を真紅の絨毯が真っ直ぐに伸びる。
ディドは竦みそうになるのを必死で堪えて、サリュエルと共に前へ進んだ。
しばらく進むと、王女の前で跪く。
「ジェノウィーズ王女、ディドを連れて参りました」
「ご苦労様でした、サリュエル」
サリュエルが頭を下げ口を開くと、二段高い席に座る王女は微笑んで彼を労った。
続けて視線を隣に移す。
「あなたがサリュエルが育てたというディドですね? 顔を上げて私に良く見せてくれないかしら?」
優しく語り掛ける王女に、ディドは緊張した様子でゆっくりと顔を上げた。
「は、はじめまして、王女様。 ディド・アーサーと申します」
「!」
王女はその顔を見て思わず声を上げそうになる。
たしかに髪の色や雰囲気がイオに似ている。
本当に彼女の子供かも知れない。
王女が驚き言葉を失っていると、ディドは遠慮がちに声を発した。
「王女様も黒い髪はお嫌いですか?」
「どうして?」
「王女様も私を見て驚いていらっしゃるようだから…… きっとこの髪の色の所為なんだと」
伏せ目がちに話すディドに、王女は優しく微笑む。
「そういうわけではありませんよ。 あなたの黒い髪はとても素敵です。 あなたの瞳の色や白い肌にとても良く似合っているわ。 将来はきっと美しい女性へ成長することでしょうね」
「でも…… 私を下賎だと言う人がいました」
「安心なさい。 王都では黒髪が珍しいからそう言ったのでしょう。 以前王都には、黒髪の美しい神女もいたのですよ」
(黒髪の神女…… たしかフォルナもそんなこと言ってた)
なんだか胸のあたりがモヤモヤする。
「それに、あなたは小動物の死にも涙を流すとても心の優しい子だと聞きました。 そんな子が下賎であるはずがないわ」
ディドは王女の言葉で蟠りが少し晴れた気がした。
ほんの少しのモヤモヤを残して。