(8)
テラスに出ると目に飛び込んできた絶景にディドは思わず声を上げる。
「すっごい、綺麗!これが私たちの住む国なのね!?」
テラスの端まで一気に駆けると、柵を両腕で掴み、身体を外に乗り出した。
遠くを望めば緑豊かな山々が連なり、眼下には規則的に並んだ街が遥か先まで続いている。
「だからさっき教えたでしょう。 これが大陸で一番平和で綺麗な国だって!」
「うそ! さっきは綺麗だなんて言っていなかったじゃない」
「……そうだっけ?」
二人が顔を見合わせて笑い合っていると席に着いたサリュエルに呼び戻された。
用意された真っ白なテーブルにはレースのあしらわれたクロスが敷かれ、上にはパンやサラダ、スープをはじめとする料理の数々が上品に並べられている。
景色を見た時とはまた違う目の輝きを見せる二人にサリュエルは微笑んだ。
「さあ、どうぞ」
二人は席に着くと、食事をしながら競い合うように彼に話しかけた。
食事を終えディドとフォルナが楽しそうに笑いあっていると、
それまで二人の様子を眺めていたサリュエルがふと口を開いた。
「ディド、ちょっといいかな?」
「うん。何?」
「実はね、ディドが来たことを知った王女様が是非会いたいとおっしゃったんだ」
「王女様が?」
「ああ、仲間内だけに私の自慢の娘だと話をしていたのだが、いつの間にか王女様の耳にも入ったみたいでね。 友達と来ているところを悪いんだけど、王女様の願いを断るわけにもいかない。 これから二人でお会いしに行こう」
「フォルナは一緒に行けないの?」
「残念だけど王女様への謁見は限られた人にしか許可がでないし、当日となれば余程の重大事件でも起きない限りは会えないんだ」
先程までとは違う彼の真剣な眼差しと雰囲気をディドは敏感に感じていた。
気まずそうな様子でフォルナを見ると、彼女も残念そうな表情を浮かべている。
サリュエルの様子からして謁見は断れそうにない。
かと言ってフォルナを一人先に返すのも気が引ける。
「すまない、フォルナ」
ディドが言い出せないでいるとサリュエルが先にフォルナに頭を下げた。