第1話
授業は滞りなく進んで、放課後になった。
「紀野、はやく行こうぜ」
「ああ」
紀野を急かして部活に行く。グラウンドに来ると、すでに何人かの部員がユニフォームに着替えてウォーミングアップをしていた。僕と紀野も着替えてウォーミングアップを始める。と、いつの間にか秋吉が目の前まで来ていた。
「須藤君。今、ちょっといいかしら?」
「え? 僕?」
「そう、あなた」
少し笑って言う秋吉さん。てっきり紀野に用があるのかと思ったけど、紀野も少し驚いてるみたいだ。
「まあ、少しだけならかまわないよ?」
「ええ、すぐに済むわ」
「わかった。で、どうすればいいんだ?」
「私についてきて」
僕は言われた通りに秋吉さんについていった。
秋吉さんに連れられて行った先には、宮下さんがいた。どうやら、用があるのは秋吉さんではなく宮下さんのようだ。秋吉さんは宮下さんと二言三言話した後、そそくさとどこかに行ってしまった。
「それで、おれに用って何?」
声をかけると宮下さんがあたふたと話しはじめた。
「あ、あ、あ、あ、あのっ! わ、わ、わたしっ! そ、そ、そそのっ! あ、あ、あ、彰くんのこ、こ、こ、ことがっ! が、ががす、す、す好き、好きですっ! つ、つき合ってくださいっ!」
言って宮下さんは頭を思いっきり下げる。予想外のことに一瞬思考が停止したけど、なんとか返事をした。
「…ごめん」
僕には好きな人がいるんだ。と、心の中で付け足しておく。好意を断るのは正直つらい。
「…それじゃあ、おれ…練習あるから…行くね…」
僕はその場から逃げるように言ってグラウンドに戻った。
「お、はやかったな」
「え? あ、ああ…」
グラウンドに戻ると紀野が声をかけてきた。とっさに返事をする。
「ところで、秋吉に何頼まれたんだ?」
「いや、大したことじゃなかったよ」
無理やりごまかした。
「ん…そうか」
それ以上紀野に追及されることはなかった。紀野なりに気を遣ってくれたのかもしれない。はぁ…今日はいい夢見れそうにないな。