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呪いの冬子さんは夏を憎む

      憎い〜


    憎い〜



  夏が憎い!



 冬子さんは夏が大嫌い。


『夏』という名前をつけたイタチを飼っているけど、その子のことではなくて、夏という季節が大嫌いなのだ。


 もちろん「暑いから」という理由もある。冬子さんは暑さが大の苦手だから。

 でもそれだけなら大して害はないのである。直接関わらなければいいのだから。そして実際、夏は季節の裏側にあって、冬子さんが夏と触れ合うことはあり得なかった。冷房の効いたトラックの運転席に乗っている限り。


「何が憎いの?」


 憎しみにのたうち回る冬子さんを見るに見かねて、雪だるまが聞くと、こんな答えが返ってきた。


「だってホラーは冬のものなのに!」


 冬子さんの言い分はこうだった。


 夏はずるい。

 ただでさえ暑さで人の意識は朦朧とするから、そりゃおかしなものを見てしまって当然の季節なのだ。

 夏に幽霊を見たからといって、それが本当に幽霊かどうかは怪しいものだ。枯れすすきどころかボーボーに背の高くなった雑草を見ても、人はそれを幽霊と見間違えてしまう。

 それどころか暑さボケした脳味噌は、人に幻覚を見せる。アパートの上の階から水が滴ってくる幻覚を見るのは、『今、天井から冷たい水が滴ってきたらいいな』という願望に基づく、幻覚あるいは妄想なのである。水道の蛇口から親友の美沙がにょろ〜んと出てきたとしてももちろん妄想だ。

 それに比べ、冬は寒さで身体は感覚が研ぎ澄まされ、意識は現実以上に明瞭なものとなる。そんな冬に見る怪奇現象こそが本物なのである。

 雪山で遭難して幻を見ることはあるであろうが、命に危険などない普段の生活の中で、もし幽霊を目撃したとしたら、それはかなりの高確率で、本物の幽霊なのだ。

 暑さで朦朧とした意識が作り出す、夏のニセモノ幽霊とは格が違うのだ!

 何より冬の幽霊には情緒がある!

 どこか寂しげで、美しく、かまってほしげな冬の幽霊の姿には、文学的な風格があるのである!

 ゆえに、ホラーの季節といえば、冬なのだ!

 それなのに! 夏の野郎め! 夏こそホラーの季節だとかチヤホヤされやがって!

 

「夏のホラーなんて、単に扇風機みたいなものでしょうが! 納涼肝試しみたいなものでしょうが! 冬! 冬よ! 冬こそがホラーの季節なのよ! ちなみに私の名前は『呪いの冬子』! 葉っぱを一枚も纏わない冬の木立ちのごとく細い女! 冬の木立ちみたいに色黒の肌! あぁ! 夏が憎い! 今から夏を呪いに行くべきよね? そうでしょう!?」


 冬子さんの長話のあいだに、雪だるまはすっかり熟睡していた。

 優しくその頭にバケツをかぶせると、冬子さんは歩きだした。


「私、夏を殺しに行くわ」

 夏をめざして、歩きだした。

「夏は家にこもる。冬も家にこもる。家にこもるという点では何も違いがないのに、なぜホラーは夏のものとされるのだろう?」


 南半球のバヌアツまで行けば夏がそこにある。

 

 しかし日本からバヌアツへの直行便は存在しなかった。


 仕方なくオーストラリア行きの飛行機に取り憑いて、飛んで行こうとしたが、離陸の際のあまりのGの大きさに、後ろへふっ飛ばされた。


「オノレ……夏メ」

 歯を食いしばり、ギシギシと鳴らしながら、冬子さんは言ったのだった。

「こうなったら……『冬のホラー企画』を小説家になろうで開催してやる! そこにもし、夏のホラーを書いてくる参加者がいたら、取り憑いて雪だるまにしてやる!」


 冬のホラー企画4、あと今日を含めて四日であった。







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― 新着の感想 ―
 夏にホラーをやるのは冬を待ち偲んでなんですしそんな風に言わなくても……。  とはいえ、それらが夏の季語にまでなっているのは皮肉。五行思想では恐怖は冬ですしね。(笑)
季節としての「夏」を抹殺しに行くというのは実にアグレッシブですね。 百物語やお化け屋敷や肝試しといったホラー絡みのイベントに「納涼」という枕詞がつくように、確かに夏場のホラー関連の事物には「恐怖で背筋…
なんだか冬子さんのこと、かわいい、と思ってしまいました。 Gに負けて飛ばされるところとか。 夏が憎い憎いと言いつつペットに夏と名付けてみたり、愚痴を雪だるまに軽くあしらわれたりしつつ、冬の中で楽しく過…
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