神の指名手配
手には指名手配書があり、そこには僕の名前がある。
この国の神に指名手配されたらしい。
「こいつは困ったな……」
口ではそう言うが、慌ててはいなかった。
ここは海岸。夜の暗い中、潮の香りがする海に木の小舟が浮かび、僕は小舟に乗り込んでいた。
指名手配されたらこの国にはいられない。だから夜に紛れて逃げることにしたのだ。
そんなわけで小舟の櫂を漕ぎ、進もうとする。
実は対岸が近いのだ。ここは海だが、海峡だった。
対岸に渡れば隣国だ。隣国に行けば晴れて解放される。
だから僕はそのまま進んだ。
「あれ?」
いくら漕いでも進まない。両腕が痛みで燃えそうなくらい漕いでも変わらなかった。
船を見ると、一本の光線が岸に伸びていた。
岸の方から声がする。砂を蹴り上げながら鉄の鎧を着た者達が走ってくる。その中に神の紋章を服に着けた女がいて、女の手から白い光が発せられている。そのせいで小舟が動かないのだ。
僕は船を捨て、海に飛び込む。
水の冷たさを無視し、全身を使い泳ぐ。対岸は見えるんだ。泳げば行ける。死んだらそれまでだ。
水を飲み、息ができない。必死に口を開け空気を吸う。腕を回し、前へ進む。対岸が遠い。後方から矢が飛んでくる。死の文字が頭によぎる。
やがて対岸についた。
「やった、解放されたぞ」
喜びを感じていたのもつかの間、何かにつかまれた。
僕は状況を把握できなかった。宙に浮かび、体が浮かび上がるのを感じる。
ただ目の前には大きな巨人がいて、彼が僕を手で持ち上げたのだと分かった。
「……あなたは?」
「所詮国境は人の線。お前は使える男だったが、残念だ」
僕は海に捨てられ、沈んだ。
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