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魔女万事屋の血魔さん  作者: 樱川由纪
第一巻 探偵編
5/17

第三話 沼地の呪い花嫁(前編)

1

レヴィアンタ帝国の冬は容赦なく凍りつく。

寒風が吹き荒れ、北方大陸は真っ白な雪に覆われていた。

荒野には分厚い雪が積もり、綿絮のような雪片が空から降り注ぐ。あまりの寒さに、太陽さえも雲の陰に隠れてしまいそうな空気だった。

こんな天气では、誰も早起きなどしたくない。

たった一人、勤勉な吸血鬼を除いては。

小さなエラが深い眠りから目覚めると、まず自分にまとわりつく魔女をばさりと押しのけ、ゆっくりと起き上がって懒懒と伸びをした。

隣にいる黒髪の生物を見て、昨夜見た夢を突然思い出し、思わず顔が赤らんだ。

小さな血魔の尾が空中でゆらゆら揺れている。その主人は何かを迷っているようだった。

その朝、ダイアナが目を覚ますと、自分が冷たい床の上に転がされていることに気づいた。空気には朝食の香りが漂っている。

「エラ……」眠そうな目をしたダイアナが部屋から体を引きずるようにして出てきた。

エラはサンドイッチを両手で抱えて食べており、テーブルの向こう側には同じように一皿のサンドイッチが置かれていた。

ダイアナは目を細めてエラに微笑みかけた。

「うわあ、なんだその笑顔気持ち悪い」

エラは顔を赤らめてそっぽを向いた。

魔女はテーブルに歩み寄り、サンドイッチを手に取ると狼のようにがつがつと大口にかじりついた。

「エラ、料理の腕が上がったね」

「別に普通だよ」

「エラ……」

魔女は小さな吸血鬼を優しく見つめた。

「なによ」

「ありがとう……」

吸血鬼の顔は一瞬で真っ赤になった。

「と、とにかく…その話はさておき」

エラはごまかした。

「昨日の依頼、忘れてないよね」

ダイアナはまたサンドイッチを一口かじると、すっとエラの隣に座った。

「もちろんよ。花嫁の怨霊でしょ?」

ダイアナはサンドイッチに挟まれたハムを見つめた。黄金色の卵液が隙間から流れ出ている。

前日、としを越えた老人が魔女万事屋を訪ねてきた。

万事屋は事前に魔法で大木を植え、魔力の保護も施していたため、丸太小屋はクリームケーキの緑のブドウのように、真っ白な雪原に囲まれていた。

老人は分厚いフリースのコートを着て、雪の中からオアシスに歩み入った。

彼は重い扉をノックすると、中では魔女と血魔がすでに席に着いて待ち構えていた。

彼は入口で杖を置き、魔女は魔法で彼の体の雪を払い、血魔は温かい紅茶を三杯運んできた。

暖炉の薪がぱちぱちとはぜる中、老人は暖炉にもたれかかって、彼らの村で最近起こった奇怪な事件について語り始めた。

一人の花嫁が、結婚して一ヶ月目の新妻が、ある夜、村の外の沼地に一人で向かうのを目撃されたという。

その頃の天气は今ほど寒くはなかったが、その夜の村には不気味な濃霧が立ち込めていた。

花嫁は戻ってこなかった。翌日、彼女の遺体が湿地の畔で村民によって引き上げられた。

花嫁は見るも無残な姿で、全身には生々しい傷が刻まれていた。

遺体は村に運び戻され、急ぎ葬礼が執り行われた。彼女の親族や友人は泣き叫び、必ず犯人を見つけ出さなければと訴えた。

しかし、犯人が見つかる前に、被害者自身が現れたのである。

冬の初雪が降り、沼地は凍った川水と湿った土で覆われた。その雪が止むと、沼地全体に再び奇怪な霧が立ち込めた。

その後、数日間にわたって、沼地に近づいた村民が例外なく失踪した。

誰かが、すでに死んだはずのその花嫁が、新婚の日に着ていた白いウェディングドレスをまとい、湿地の周りを彷徨っているのを目撃したというのだ……。

話がここまでくると、ソファに座っていたエラの顔は蒼白になり、矢のような尾はぴんと逆立っていた。

魔女はこっそり彼女の背後に回り込んだ。

そして、エラの小さな尾をぎゅっと掴んだ。

その後、エラは一日中ダイアナと口をきかなかった。

「全部あんたのせいよ、この陰湿な蛇女!」

現在に戻り、エラは手で体を支えながら抗議した。

「ごめんね、ただあなたの様子が面白そうに見えただけなんだから」

魔女は残りのサンドイッチを一口で平らげた。

「それに、昨夜私をぎゅーって抱きしめてたのは誰だったっけ…」

「でたらめを言わないで!」

エラは慌てて彼女の言葉を遮った。

「そういえば……」

魔女はまたサンドイッチを手に取り、話題を戻した。

「ペレドメーレに旅行に行った時、世間で有名な小説を一冊読んだんだ」

魔女はサンドイッチを食べながら、テーブルの脇に置かれた魔法の本を開き、つぶやくように続けた。

「その本には、今回の事件によく似た事件が書かれているみたいなんだ」

ダイアナは顔を上げ、エラが反応しないのを確認した。

「奇跡的に復活した花嫁の幽霊、頻発する被害者、それと……」

「ベレー帽を被った大探偵とその医者パートナー」

ダイアナは顔を上げてエラを見た。エラはまだ嬉しそうにサンドイッチを食べている。

この本は現在ペレドメーレで大ベストセラーになっており、多くの若者に人気があった。どうやら人々は大探偵とその助手が事件を解決する物語を特に好むようだ。

しかし、小さな血魔は退役軍医ではないし、彼女も大探偵なんかではない。

ダイアナはそう心の中で思った。

2

酒場の中は人でごった返していたが、不気味なほど静まり返っていた。

魔女が正面入口から入ってくると、吸血鬼がその後を緊いてきた。誰一人として彼女たちをまともに見る者はいない。

「魔女様、はるばるお越しいただき、ありがとうございます」

カウンターから一人の老人が出てきた。あの日、雪を冒して依頼に来た人物その人で、彼こそがこの村の村長だった。

「お二人様のために部屋を手配しました。この酒場の二階にございます」

「ご親切にありがとうございます、老先生。改めて自己紹介させてください。魔女のダイアナ、こちらは……」

ダイアナは傍らにいる吸血鬼の頭をぽんと軽く押した。

「わっ!」吸血鬼は憤然と彼女を睨みつけたが、すぐに顔を向き直して丁寧にお辞儀をした。

「魔女の眷属、エラ・リオーナでございます」

「お二人ともお元気そうで何よりです。それでは、どうぞこちらへ」

一階を離れる時、エラは背後から無数の視線を感じずにはいられなかった。

「お二人様」村長は二階の一室の前で立ち止まった。

「旅館は満室となっておりまして、シングルルームが一つだけ残っております。お気を悪くなされませんよう」

「大丈夫大丈夫、普段から一緒に寝てますから」

ダイアナはすかさず傍らにいるエラをぎゅっと抱きしめた。

「は、な、せ、てよ」エラは必死でダイアナを押しのけようとした。

「なるほど…老夫の誤解でしたか。お二人はそういうお仲間だったのですね?」

村長は笑みを浮かべて彼女たちを見つめた。

「違うんです!」エラはもがけばもがくほど、自分を縛る腕の力が強くなるように感じた。

「お気遣いなく。この旅館は村で一番の旅館でして、各部屋の間の壁には魔道具が使われております。つまり……」

村長はそう言いながらドアを開け、「どうぞ」と中へ招く仕草をした。

「防音は完璧でございます」

そう言うと、彼は杖をつきながら一歩一歩、階段の方へと歩き去った。

「あらら」

魔女は相変わらず顔を赤らめた小さな吸血鬼を抱きしめていた。

「そう言われたわね、エラ」

「今日は…私、床で寝るから」

エラは珍しくきっぱりと言った。

夜が訪れ、窓の外には再び小雪が降り始めた。

ダイアナは窓に手を当て、ガラスに息を吹きかけては、その息で曇った部分を拭いていた。

「何か考えはある、ダイアナ?」

傍らで椅子に座り、本を読んでいるエラが言った。彼女は『血液魔力成分研究序説』を読んでいた。これは彼女の専門の大学院受験に必要な教材だった。

「どんな考えかって?例えば、花嫁を死から蘇らせる死霊法术とか?」

「ありえないよ、ダイアナ」

エラはリンゴを一つ手に取り、かじりついた。

「うん、知ってる」

死者を完全に蘇らせる法术は存在しない。だが、死体を操る法术は存在する。

「それで、誰かが花嫁の死体を操っていると疑っているの?」

エラはリンゴを何口か噛み、飲み込んだ。

「そんなこと、花嫁が埋葬されている墓場に行って透視魔法で見てみればすぐわかるでしょ」

そう言い終えると、ダイアナは再び窓に息を吹きかけ、今度はその曇りをゆっくりと消していった。

暖炉の火はさらに勢いを増していた。

「そんなことより、そろそろ寝ましょう」

ダイアナは躍起になって言った。

「早すぎるわよ、この変態魔女!」エラは飛びかかってきた魔女をすぐに押しのけた。

「それに今日は私が床で寝るって言ったでしょ」

「そんな他人行儀なこと言わないで、ここも家だと思ってよ」

エラはダイアナの腕の中でじたばたともがいた。

「床で寝たら、風邪ひいちゃうよ」

「ひかないわよ。あっち行ってよ」エラはダイアナを強く押しのけ、ベッドの方へ歩み寄ると枕を一つ抱え上げた。

「ベッドの端を境界線としてね」エラはそう言って線を引くように示した。

「この線を越えようものなら…絶対に許さないからね」

エラのあまりの真剣さに、魔女はただ笑ってそれ以上議論しなかった。

こうして彼女たちは一人がベッドで、一人が床で丸くなって眠ることになった。

夜も更け、雪は次第に止んだ。部屋の外には何の音もなく、暖炉の中で薪が割れる音だけが聞こえる。

エラはぐっすりと眠り、夢の世界に沈んでいった。

(エラの夢)

部屋の中、幼い吸血鬼の少女が、ペンを走らせていた。

窓の外では他の子供たちが楽しそうにはしゃぐ声がする。

少女の周りには大勢の人が立ち、一人一人が恭しく、彼女の指示を待っている。

しかし少女の願いが叶えられることは決してなかった。

「遊びに行きたい」

「ペットが飼いたい」

「ヴァイオリンが欲しい」

「小説が買いたい」

「……」

少女は首を振り、手にしていた本を置くと、トイレに行くと言って嘘をついた。

彼女はドアの外へ出ると、絢爛豪華な回廊へと続く道を進んだ。

回廊には何をしているのかわからない使用人たちが行き交っている。

少女は彼らの視線を避けながら廊下の突き当たりまで歩き、巨大な噴水を迂回し、大きな窓を押し開けた。

彼女はまだ建設中の庭園にやってきた。ここにはめったに人が来ない。

彼女は裸足で庭園の中央まで走ると、石のテーブルの上に様々な鳥かごが置かれていた。少女は毎日この庭園に来て、鳥たちと会話をしていた。

彼らは少女の唯一の友達だった。

小喜シャオシー、今日も毛並みがつやつやだね。ちゃんとブラシかけた?」

そのうちの一羽が彼女に向かってぺちゃくちゃと鳴いた。

多多ドゥオドゥオ、また大きくなったみたいだね」

小艾シャオアイ、あなたの羽根はとてもきれいだね」

少女は鳥たちの言葉を理解できなかった。彼女はただひたすらにしゃべりかけ、最近あったことを話すだけだった。

「それでね…父上が突然私を呼び出して、またこっそり遊びに行ったんじゃないかって聞くの。それから三日間、ご飯を食べさせてもらえなかったの…」

少女がそう言っていると、彼女の視線は一つの特別な鳥かごに留まった。かごの中では一羽の白い小鳥が、息も絶え絶えに底で横たわっていた。

少女はかごの扉を開け、そっと小鳥をつついた。

反応がないことを確認すると、彼女は優しく小鳥を掬い上げた。

少女は小鳥を適当な場所に埋めると、淡々と庭園を去った。

「エラ!エラ!」

エラは誰かが自分を呼んでいるような気がした。

「エラ!早く目を覚まして!」

「変態…来るなって言ったでしょ?」

エラは眠そうに言った。

「エラ!」

突然、自分が抱き上げられたような感覚に襲われた。驚いて目を覚ますと、周囲は燃え盛る炎に包まれていることに気づいた。

「どうやら全村あげて歓迎ってわけじゃないみたいね」ダイアナは冷たく言った。

「魔法は使える?」

エラは一秒で真剣な表情に変わった。

「杖が、私の杖が見つからない」

エラは部屋の隅を見た。彼女たちの荷物は跡形もなく消えていた。

炎はますます激しく燃え広がり、やがて彼女たちの足元にまで迫ってきた。濃い煙が立ち込め、エラは目を開けていられなくなった。

ぱちぱちという音と共に、大きな梁が天井から落ちてきて、ベッドの上にどさりと落下した。

「ちっ、これしかないか」

エラは舌打ちをすると、手で魔女の肩を抱き寄せ、魔女の首筋に食いついた。

彼女の瞳は桜色から鮮やかな紅色へと変わり、輝きを放ち始めた。

巨大な黒い翼が肩から生え、軽く一羽ばたくと、周囲の炎は押し戻された。

「行くよ、ダイアナ」

エラは抱き抱えられていた姿勢から浮遊する姿勢に変わり、魔女の手を強く握った。

「墓地よ、墓地に行くの」

エラは無言で、ただ力強く翼をばたつかせた。一陣の強風が屋根を吹き飛ばし、彼女たちは驚異的な速度で部屋から飛び立った。

3

魔界大陸、ノクスターニア、永夜の城。

威厳あふれる巨大な血魔が、脚を組んで、庭園の石の椅子にだらりと座っている。

ゴブレットの中の赤い液体を揺らしながら。

これは普通の血魔ではない。彼の全身は真っ赤で、一対の鋭い角を生やし、体格は大きく、白くふわふわした毛が頭頂から腰まで流れている。彼が座っているだけで、誰もが寒気を覚えるほどだった。

「父上」

外見が彼によく似た血魔の少女が右側の窓から庭園に入ってきた。ただ、彼女の頭には一本の血のように赤い角だけが生えている。

「北方の国々はくまなく探しましたが、まだ見つかりません」

巨大な血魔は手にしたゴブレットを置くと、ゆっくりと立ち上がり、一歩一歩うつむく少女に近づいた。その一歩一歩が地面を震わせるかのようだった。

少女は顔を上げようとせず、冷や汗が頬を伝った。

巨大な血魔の大きな手が天から降り、少女の頭の角を掴み、無理やり彼女の顔を上げさせた。

「我が娘よ、答えるがいい」

血魔は彼女の角を折り曲げんばかりの力で言った。

「魔界との繋がりを断たれた一匹の血魔、正体不明の契約者、奴らはどこへ行ったというのだ」

「父上…私には、わかりません」

少女は率直に認めると、目を閉じた。

巨大な血魔は手を離した。少女はひざまずき、息を切らした。

「薬は、すでに配布させました」

「大量の薬を」少女は付け加えた。

「この薬は拡散速度が速く、人間界の急需品です。間違いなければ、彼女もすぐに接触するでしょう」

「その時こそ、彼女の足跡を捕捉できるかもしれません」

巨大な血魔は何も答えず、ただ石の椅子の方へ歩き去ると、杯の中の液体を一気に飲み干し、皮膚の下の血管が不気味に光った。

彼は一列に並んだ鳥かごの前まで歩くと、そのうちの一つを開けた。一羽のカナリアが中から飛び立った。

まだ空中に舞い上がらぬうちに、一滴の凝固した血液がその体を貫いた。カナリアは熟れきった果実のように彼の足元に重く落下した。

血魔の少女は相変わらずひざまずいたままで、その哀れな鳥をじっと見つめていた。

彼女は恐怖で、鳥がもがき苦しみ、膨張し、大きく変貌し、赤い角を生やし、見知らぬ怪物へと変わるのを見つめていた。

4

満月の下、小さな血魔は道連れの魔女を抱えて空中を飛んでいた。

「見えたわ、あそこよ、墓地」

ダイアナは左手で墓地の方向を指さし、右手は血魔の片腕をしっかりと握っていた。

エラは速度を落とし、空中からゆっくりと降下して魔女を地面に下ろすと、すぐに再び上空へ舞い上がった。周囲を見回した後、彼女は魔女の前に着地した。

「怪しい者は後をつけてきていないわ」

続けて彼女はダイアナの背後にある一基の墓を指さした。

「あの二人を除いては」

墓の前には、瓜二つの二人の中年初老の男性が立っていた。

ダイアナとエラが近づくと、やや老けて見える方の男性が先に口を開いた。

「我々の魔女様は、そう簡単には焼き殺されないようだな」

彼は無表情で、冷たくそう言った。

「エラ、興奮するな」

魔女は手を伸ばし、傍らで戦闘態勢を取る、厳しい表情の吸血鬼を制止した。

「火をつけたのは彼らじゃない」

やや老けた男性はしゃがみ込み、墓石に刻まれた名前——「ミラール・チェノス」をじっと見つめた。

「彼女はこの姓で死ぬはずもなく、ましてやこの姓で蘇るはずもなかった」

男性は悲しげにそう言うと、墓前から一掴みの土を手に取った。

「数ヶ月の間、私の妻は亡霊として数十人を殺害しました。人々は、これが死者を蘇らせる魔法だと固く信じています」

「魔法は魔法使いの特権であり、普通の人々には想像もできない神秘の領域、未知なるもの。未知は恐怖を意味します」

「死んだ者は憎しみを呼び、憎しみはさらなる憎しみを生みます。私の妻によって家族を引き裂かれた者たちは、今も尚、憎悪に燃えています」

「あなたの死んだ妻を憎んでいるのですか?」エラは牙を引っ込めて割り込んだ。

「いいえ、死体を憎む者などいません」

男性は立ち上がり、手にした土を払い落とした。

「人々が憎むのは魔法そのものよ、魔女様。あなたは来る場所を間違えたと思います」

ダイアナは三年前、石を投げつけてきた子供たちや、天から降り立った神族のことを思い出した。

これは呪いだ。死んだ花嫁による無形の呪い。

人々は常に未知なる力に恐怖を抱く。

「エドワード・チェノスと申します。ご覧の通り、この墓の主の夫です」

男性は手を差し出した。魔女はそれを受け取った。

「あなたの話し方から察するに、文学者でもいらっしゃるのでしょう?」

魔女はそう推測した。

「お利口さんだ、魔女様。あなたには探偵の才がありますね。もし他に何か知りたいことがあれば、後で私の家までいらしてください。きっと見つけられるはずです」

男性は手を離すと、踵を返して去ろうとした。もう一人のよく似た男性も彼女たちに向かって一礼した。

「暴きたければ暴くがいい。死んだ者の屍は、無実の者を殺害する以外に何の役にも立たん」男性は去り際に、そう言葉を残した。

すぐに二人の男性の姿は森の中に消えた。

「暴くの、ダイアナ?」

エラは無邪気にダイアナに尋ねた。

「いいえ、たとえ見ていなくても、彼女はまだ中に眠っているはずよ」

魔女はそう確信を持って言った。彼女は今、杖がなく、どんな魔法も使えない。これは彼女たちの次の行動にとって非常に不便だった。

「ダイアナ、これからどうするの」

魔女は傍らにいる吸血鬼の頭を撫でると、口を歪ませた。

「僕たちの【花嫁】に会いに行こう」

5

濃い霧が湿地帯を取り囲んでいた。

二人の少女は、沼の傍らの凍りついた地面をそっと歩いていた。

「ダイアナ、ダイアナ」エラは魔女の名前を繰り返し呼んだ。

「エラ、静かにして。彼女を驚かせちゃうよ」

エラは全身を丸めて、右手で救命の藁のように前方の魔女のローブをしっかりと掴んだ。

「ダイアナ、早く教えてよ、幽霊って本当にいるの?」

「いるわけないよ、私の小さな血魔ちゃん。あなたは自分で自分を怖がらせすぎなのよ。この世界には魔法と科学しかなく、それ以外は一切存在しないんだから」ダイアナは仕方なさそうに答えた。

彼女たちはもう魔法による犯行の可能性を排除していた。ダイアナもエラも、墓の中に魔力を感じることはなかった。

ならば彼女たちの第一の任務は、その花嫁のふりをした殺人犯を見つけ出すことだ。

彼女たちはこうして沼の周りを歩き続けた。やがて周囲の霧はますます濃くなり、月明かりさえもほとんど遮ってしまった。小さな血魔がずっと震えていたため、彼女たちの歩みは異常に遅かった。

エラは眼前数メートル先のダイアナの姿さえ見えなくなり、自分が掴んでいるローブのほんの一片しか見えなくなっていた。

「ダイアナ、まだそこにいる?」

「ずっとここにいるよ」

しばらくして、エラはまた尋ねた。

「ダイアナ、まだいる?」

「あなたが掴んでいるように、ずっとここにいるよ」

「ダイアナ!」

エラは突然手を離すと、頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「もう歩かない」

豆粒のような涙が彼女の目から零れ落ちた。小さな血魔は全身を震わせ、頭を抱えて泣いていた。

霧の中から一対の手が伸び、エラの身体を包み込んだ。エラは心安らぐ温もりを感じた。

「大丈夫、私がここにいるよ」ダイアナは優しく彼女の背を撫でた。

エラはダイアナとの拥抱を嫌ってはいなかった。小さい頃から、彼女はほとんど抱きしめられたことがなかった。

人間界に召喚されて以来、彼女はこの温もりを頻繁に感じるようになり、ついにはそれに依存するようになっていた。

ダイアナが抱きしめてさえくれれば、彼女は安心し、他の大人たちからの命令について考える必要がなくなった。

エラは魔女の拥抱に応え、二人はしっかりと抱き合った。

その直後、エラは目を見開いた。

白いウェディングドレスを纏い、全身血まみれの花嫁の姿を見たのだ。

7

魔女は震えながら温かい紅茶を啜っていた。

彼女は暖炉の前で丸くなり、毛布にくるまっていた。服は埃まみれで、傷だらけ、顔には生気がなかった。

彼女はついに最後の瞬間に謎を解き明かした。あの不気味な亡霊花嫁の最終的な謎を。

しかし、もはや手遅れだった。

魔女は自身の身体を強く抱きしめた。

彼女の生涯で、恐怖を感じさせた出来事はそう多くはなかった。

亡き両親、巨大な魔獣、天から降り立った天神族……

これらは指折り数えられるほどだ。

彼女は恐怖を感じていなかった。ただ自責の念に駆られていた。

ほんの少し前、彼女は小さなエラを失ってしまった。霧に包まれた沼地に置き去りにしたのだ。

当時、彼女の腕の中にいたエラは恐怖の叫び声をあげ、そして暴れ始めた。

血管が彼女の皮膚の下で光り、エラの目は恐ろしいほど真っ赤に染まった。彼女は巨大な翼を生やし、制御不能に牙をむいた。

彼女はダイアナの抱擁から逃れ、飛び上がり、空へ舞い上がった。

エラは月の前で、威嚇するように両翼を広げた。

鮮やかな赤い魔法陣が彼女の足元に現れ、月は呼応するように瞬時に血のように赤く変わり、空気中は血の匂いで満ちた。

ダイアナはその瞬間、逃げなければ死んでしまうと悟った。

エラは湿地帯で魔法の狂乱的な爆撃を開始し、魔力が地面で炸裂し、濃い血煙が立ち上り、血煙はすぐに鋭い棘へと変わり、四方へ飛び散った。

逃げ惑う中、ダイアナの手、太もも、肩など、様々な部位が不同程度的な爆傷を負った。

今、彼女はチェノス兄弟の家で、まだ悪夢から覚めやらぬ状態だった。

ダイアナの記憶の中で、あの力に対抗できるのは、かつて出会ったあの天神族だけだった。

「魔法じゃなかったのか……」

ダイアナは独り言をつぶやいた。

「私はずっと、どんな魔法や偽装が花嫁を蘇らせるのかにこだわっていた。だが実際には、私たちは魔力の一片も感知できていなかった」

自分は小さなエラを地獄へと追いやってしまった、とダイアナは思った。

薬だった。化学薬品が霧状になって沼地周辺に散布されていたのだ。

この薬は人々に恐慌を引き起こし、恐慌に陥った人々はおそらく最も恐れるものを見るのだろう。

この村にとって、ここ数ヶ月で村民が最も恐れているもの、それは蘇った花嫁だった。

そう考えると、ダイアナは再び自身を強く抱きしめた。

どうすればいい、どうすればいい。彼女は自分自身に冷静になるよう何度も促した。

彼女は自分自身が、エラへの感情がもはや遊び仲間の域を超えていることに気づいていた。これが彼女の自責の念を深くしていた。

「魔女さん、あなたの小さな女友達をこのまま放っておくと、明日の朝までには村中の人が皆殺しにされますよ」

傍らにいた男が窓の外の赤い月を見ながら、魔女に言った。

「自己紹介を忘れていました。私はアルフレッド・チェノス、エドワードの双子の弟です」

「兄貴はどこへ出かけたのか分かりませんが、どうでもいいでしょう。さあ、教えてください、魔女さん」

男は振り返り、嘲るように魔女を見た。

「あなたの聡明な頭脳が何の真相を見出したのかを」

魔女は彼をまともに見ようともせず、ただエラの名前を繰り返し呟いていた。

「気が狂ってしまったのか?どうやら杖を失ったあなたも、私のような凡庸な輩に堕したようだな」

男は一歩一歩魔女に近づき、魔女の耳元に近寄り、低声で囁いた。

「あなたは彼女を救えませんし、私を殺すこともできません。私たちはただ静かに死を待ちましょう。あなたのあの愛らしい眷属が、私たちを全て粉々に砕くのを」

「私はこの瞬間を長い間待っていました、魔女さん」

そう言うと、彼は振り返らずに部屋へと入っていった。

チェスノ兄弟の両親は、10年前の戦争と南方国家との戦争で亡くなった。

当時、兄弟は家で両親と夕食を共にしていた。

兄は皿の上のステーキを切りながら、父親に新しい小説を買ってくれるよう頼んでいた。

そして彼は席に座り、野原から捕まえてきたコオロギを弄んでいた。

一陣の光が走り、ほんの一瞬の出来事で、彼らの家の屋根は吹き飛ばされ、続いて様々な魔法の砲撃が浴びせられた。父親は彼らを守るために両腕を吹き飛ばされ、最後は地面に倒れ苦しんで死んだ。

母親は、攻撃の最初で頭を吹き飛ばされた。

アルフレッドはその光景を一生忘れない。彼は母親の頭を抱えて泣き叫び、兄は傍らで腕を広げて彼を守り、その傍らには倒れた父親がいた。

天上の魔法師大隊は潇洒に去り、何も残さなかった。荒廃した土地以外には。

戦後、兄は新たな生活を見つけ、作家となった。弟は決してそこから抜け出せなかった。

ある日、兄が突然一人の女性を家に連れてきた。

女性は美しく優しく、艶やかな髪と人の心を動かす瞳を持っていた。

女性が家に入ってきた瞬間、彼の心にあった考えはただ一つ。

殺せ!

そして彼女の身分を借りて、所謂魔法使いに復讐を果たすのだ。

女性は彼に嫉妬を感じさせた。なぜ兄は新たな生活へと歩み出し、何事もなかったように美しい妻を見つけることができるのか。

魔法使いは彼に憎しみを感じさせた。彼の幸せな生活を奪った魔法使いが、厚顔にもこの国で万事屋を開き、依頼を解決するという名目で偽善的行為をしている。

こうして彼は兄の結婚後に義理の姉を殺害した。彼は闇市から事前に多くの幻覚剤を買い込んだ。この薬は当初単なる麻薬だったが、どこからか人間界に流入したものだ。

彼は大量のこの薬が人々を恐慌に陥らせ、最も恐れるものを見せることができると発見した。

そして彼は村で万事屋の存在を宣伝し、村長にあの万能の魔女を訪ねるよう提案した。

毎晩、彼はウェディングドレスで全身血まみれの花嫁に変装し、濃霧の中で恐怖の限界に達した無実の村民を繰り返し殺害し、外界にこの存在しない亡霊を宣告したのだった。

あの日、彼は待ち望んでいた魔女を待ち受けた。村民が恐慌に陥れば陥るほど、彼はより成功し、魔法へのこの恐怖を利用して狂った計画を達成できると知っていた。

大火が熊熊と燃え上がった。彼は何もしていないのに、既に誰かが魔女の荷物を盗み、彼女たちの泊まっていた酒場に火を放っていた。

唯一彼の計画外だったのは、この魔女が亡霊の存在を全く恐れず、眷属を連れ、杖なしで湿地帯に入ったことだ。

彼は慌てて変装し、湿地帯へ向かった。そうすれば魔女に薬を盛り、普通の村民を殺すように彼女を殺すことができる。

さらに彼の予想外だったのは、彼が花嫁よりも恐ろしい怪物を造り出してしまったことだ。

あの血魔は、地獄の悪魔のように空中に漂っていた。

彼とダイアナはほとんど同時にこの家へ逃げ帰った。しかしともかく、彼は思った。彼はすでに自分の目的を超過達成したのだ。

ダイアナはとっくに異常に気づいていた。

彼女はテーブルの上の血まみれのウェディングドレスを見た。

彼女は男がどんな理由で復讐したか気にしなかった。彼女は生まれた時からこの悪意に耐えてきた。

人為的に装われた亡霊、霧状の化学薬品、不審な依頼。これらは彼女が既に一层层看透していたが、残念ながらもう手遅れだった。

今、彼女が望むのは小さな眷属を救い戻すことだけだ。

今夜が明ければ、村中の人々と彼女は皆殺しにされ、そして魔法協会は北国で虐殺を繰り広げるこの怪物に指名手配をかけるだろう。

大勢の魔法師が出動し、エラも死を免れない。

彼女はこの結末を避けなければならない。

そう考えると、ダイアナはついに立ち上がり、服の埃をはたいた。

その通り、彼女はこの状況を阻止しなければならない。全力を尽くして。

そして聡明なダイアナはとっくに予備方案を準備していた。彼女は誰かが湿地帯で彼女を殺そうとすることを知っており、それに対処するため、彼女は魔女としてもう一人の普通の人間を探していた。

あの魔法使いではない普通の人間が、彼女の最後の希望だった。

6

エドワードは大木の陰に隠れていた。

木の反対側では、怪物が天上で虐殺を肆意に行っていた。

彼の手には一本の杖が握られていた。

この杖は彼のものではなく、遠方から依頼処理に駆けつけたあの魔女からのものだった。

時間を夜半前に戻す。魔女は彼の手を握り返した。

彼は何か異様なものを感じ、自分が魔女から何かを受け取ったかもしれないと。

エドワードは人目につかない隅を見つけ、手にした一枚の紙切れを見た。

紙切れにはこう書かれていた——親愛なるエドワード様へ:あなたの書かれた小説はとても面白く拝見しました。どうか私の杖を探し戻してください 魔女兼反社会的人格を持つ大探偵 ダイアナより

エドワードは心から笑みを浮かべ、強い正義感が心中に湧き上がった。

魔女はいつ自分の正体を見抜いたのだろう?

話し方から、彼が文学者であること、服装のブランドからペレドメーレに行ったことがあることまで看破したのか。

彼は魔法使いではないが、亡霊花嫁が偽物であることをはっきり推論していた。これは同じ筋書きが彼の本に登場するからだ。

他にどんな細部が漏れていたのか?彼にはもうわからなかった。この神秘的な魔女は彼の小説のどの人物よりも聡明で、さらに彼女は魔法さえ使える。小説には決して登場しない超能力だ。

彼は杖を強く握りしめ、後方を覗き込んだ。

悪魔のような吸血鬼が空中に浮かんでいた。10年前、魔法によって破壊された家族を思い出させた。

だが今は違う、と彼は思った。

彼にはついにこの一切を変える力がある。自身の手で危機に瀕する無数の家族を救い戻す力が。

そう考えると、彼は身を翻し、掩体の一方からもう一方の掩体へと転がった。

吸血鬼は鋭く彼の存在を察知し、無数の血滴で作られた錐が彼に向かって飛来し、その後爆撃が続いた。

ほんの一瞬で、彼の身を隠す全ての木々が払いのけられ、吸血鬼は手を挙げ、悪意に満ちて彼を指さした。

終わりか、と彼は思った。

一人の少女が横から滑り込み、彼の手から杖を奪い取った。

少女が立ち上がると、杖は彼女の手で回転し、明るい魔法陣が彼女の後姿を輝かせた。ダイアナが及時に駆けつけたのだ。

「あなたの依頼を引き受けました、エドワード・チェノス」

少女は言った。

エドワードは思いもよらなかった。魔法がこれほど美しいものだとは。以前の魔法への恐怖は、この一瞬で一掃された。

ダイアナも思いもよらなかった。一人の普通の人間にこれほどの勇気があるとは。これはかつて彼女をいじめた時の悪意に満ちたイメージを覆すものだった。

魔法陣は巨大な光を放ち、魔女は地面から浮き上がり、杖を手の中で弄った。

「エラ、私の小さな吸血鬼ちゃん、今すぐあなたを救い戻すわ!」

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