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7限目 一時限目、戦争(5)

 蒼真の放ったボルトアローが、蘭香の身体に突き刺さる。


「ふん、失敗だな、雑魚ども」

「うわぁ〜! 性格わる〜い! でも、蒼真ちゃんの容赦ないとこ、日和は好きかも〜♪」

「何を談笑していらっしゃいますの? コチラはやってやりますわよ!」


 再び扇子を開き、高らかに叫ぶ。


花爆・超(グラン・ブルーム)!!」


 先程よりもさらに多くの色とりどりの薔薇の花が四郎を囲む。


「爆ぜなさいな!」


 巨大な花火やドゴォォォと鳴る轟音が響いた。


「うおおおおおおおおおおお!!」


 椿の狙いは、ひとまず足の速い四郎をキルして時間を稼ぐことだ。自分の異能力(スキル)であれば、四郎のような単純な人はすぐに吹き飛んでいくだろう。


 事実、先ほどもそれでキルできているのだ。いくら頭でまやかしと分かっていても、四郎であれば……。


 爆発の煙が止まない。景色が見えず、すぐに現れる様子もないが、椿はすぐにおかしいことに気づく。


「キルログが表示されませんわ……!?」


 電光掲示板に出てくる、キルの通知が来ない。つまり、四郎はこの爆発で倒せていないことになる。


「わ、わぁわぁ! とんでもない爆発! 爆発ですよ、杵埼先生!」

「落ち着きなさい、大丈夫だから」


 奈護美にここで観戦させることにしたのは失敗だっただろうか。改めて舞冬は、椿の能力について解説する。


「……だから、あの爆発は大丈夫。この特別体育館も、あんな程度で壊れるようにはできてないわよ」

「そ、それはそうかもですけど……でも、すごいですね。あんなすごい勢いのものを小規模って思えるの。分かっていてももしかしたら、って思っちゃいそう」

「そうね。一瞬でもダメかもと思うと、やられてしまうでしょうね」


 だからこそ、舞冬もキルの表示が出ないことを不思議に思っていた。しかし、すぐに理解する。


「ああ、なるほど。鷹羽くんに"お前は強い"だとか、そんな感じで何か吹き込まれたわね」

「鷹羽くん? ……あ! あの弓の男の子ですか?」

「えぇ。じゃないと国園くんの性格なら、間違いなくキルされているはずよ。たとえまやかしと分かっていても」


 案の定、煙の晴れたスタジアムでは、堂々と仁王立ちを決める四郎が立っている。


「ど、どうして無事なんですの!?」

「僕は強い!! 絶対負けない不屈の男だからだ!! アクセル!!」


 異能力(スキル)を使って瞬時に間合いを詰める。椿は納得いかず、慌てるばかりだ。


「無理ですわやばいですわキッツイですわ! 近づかないでくださいまし!?」

「椿くん、すまない! 近づくし、かなり痛いぞ!」


 四郎がしっかりと、椿の腰の辺りを掴んだ。そのまま、上体を逸らし、椿の頭部を地面に向けて加速させていく。


「僕は攻撃に異能力(スキル)は使えないんだぁぁぁぁぁああああ!」

「プロレス技ですの~~~~~~~~~~!?」


 ゴンッ! と激しい重い一撃の音。


「ゴフッ!?」

『Kill! 国園四郎→薔薇小路椿』


 牙城が崩れた。重要な防衛拠点が崩れさり、くまさんチームの旗はあられのない姿を晒すこととなる。


「よし、よくやった。だから言っただろう? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってな」

「ああ、そうだな! 蒼真くんの言う通りだ!」


 舞冬は再び納得した。


「なるほどね。彼が爆発に負けないと思わせればいいのか。さすが、頭の回転が早い鷹羽くんだから思いつくやり方ね」

「な、なるほど……それにしても、すごいですね。皆が皆、本気で勝とうとしてる……戦闘着に守られてるとはいえ、ボロボロになっているのに……どうして……?」

「決まってるじゃない」


 足を組み替えて、奈護美の方を一切見ずに答えた。


「あの子たちは落ちこぼれで負けてばかりだったから、負けた時の悔しさを知ってるのよ」


 そう言った舞冬の口角が上がっていることに、彼女自身は気づいているのだろうか。


 再び、満身創痍の彼らを見る。必死になって戦っている彼らの、負けたくないという想いは、彼らのことをよく知らない奈護美でも強く感じられる。


 身体中、汗にまみれて。


 まだ15の子どもたちが、戦闘着で軽減されているとはいえ、かなりの痛みに耐えながら戦っているのだ。


 奈護美にはやはり、この行事は恐ろしいものに見える。


「……ねぇ、杵埼先生。こんな風になってまであの子たちが戦う必要ってあるんでしょうか?」

「……さあ、どうでしょうね」


 まっすぐな、眼鏡の奥にある菫色(すみれいろ)の丸い瞳を見ることができなかった。

 

 舞冬のやろうとしている計画は、極めて個人的かつ、身勝手な動機により始まったことだったからだ。


 さて、スタジアム。状況は一気にねこさんチーム優勢。


「ふん、これで邪魔な奴はもういないに等しい。国園、さっさと旗を持って戻るぞ」

「ねぇ、蒼真ちゃん、忘れてるよ。日和たち、まだ……」

「あ? まさかまだ面白くしたいって言うんじゃないだろうな?」

「いや、違くて……」

「とにかく! 僕が後はこの旗を持って帰れば終わりなんだ。さあ、拾ってすぐに――」


 四郎の顔面に強烈な()()。その勢いに、近くにいた他の2人も吹き飛ばされる。


「ぐっ……! な、なんだ……何が起きた!?」

「も~! だから日和、言おうと思ったのにぃ~! キルログが出てないのは、()()()()()()()()()()なんだよ~!」

『Kill! 鬼怒川蘭香→国園四郎』


 視線を向こうに移せば、蘭香がボールを投げたことが分かった。

 

 そして、その後ろで怜恩がほくそ笑んでいる。その表情を見て、蒼真はすべてを察した。


「イミテーション……あの時俺が撃った鬼怒川は、幻影か……!!」

「そういうこと。ボクが出せるイミテーションは1つだけだけど、ボクに分かる人なら誰だって出せちゃうんだから。というか、仮に蘭香ちゃんをやれてたとしても、まだボクはやられてないからね!?」


 怜恩がそう言っているが、蒼真の耳には聞こえていない。すぐに勝つための計算をし直さねばならないからだ。


 幸いなことに、インパクトで吹き飛ばされた蒼真の位置は、旗に近い。腕を伸ばせば旗に触れられそうだ。戦闘着の重みは、少しずつ緩和されていく。これなら動ける。


 腕を伸ばし、旗に振れると、電子フラッグが自身の戦闘着の腕の液晶画面に映しだされる。


『GET FLAG! 鷹羽蒼真』


 そして、弓を引きながら走る。


 正面から怜恩が迎え撃ってきた。


「そんな状態で弓撃っても、当てれないでしょ?」

「俺の弓なら関係ない。狙う人間さえ決めれば、人間の放つ電流を感知して自動追尾する!」

「ああ、知ってるよ。だから、蘭香ちゃんがその矢に狙われないように、ボクがキミの前に立ってるのさ!」

「くっ、邪魔をするなぁ!」


 放たれた矢が怜恩に刺さる。今度はイミテーションではなく本物だ。


『Kill! 鷹羽蒼真→星野怜恩』

「じゃあ、あと頼んだよ、蘭香ちゃん! 一気に行っちゃって……!」

「行くぞこの野郎! インパクト・ロケット!」


 再び、床に触れて衝撃を放ち、自分を飛ばす。その軌道を読んだ日和が、すかさず蘭香の前に飛び出した。


「なっ!? どけ、ゲーマー!」

「ゲーマーだからどかないよ~だ!」

「だったらぶっ飛ばすだけだ!」

静止球(スタシス・オーブ)!」


 蘭香が接触し、インパクトを放とうとするよりも少し早くに、日和がオーブを放つ。日和の目の前に現れたオーブは、すぐに蘭香とぶつかった。


「止まるのは動きだけだろ? アタシはお前に触ったぞ!!」


 刹那、日和が大きく吹き飛んだ。インパクトは、触れている時間が長ければ長いほど体重の重いものを飛ばすことができ、吹き飛ぶ威力も距離も強くなるというもの。


 軽い日和は、数秒触れていただけでまりのように弾んで吹き飛んだ。


『Kill! 鬼怒川蘭香→春原日和』


 と、ここで椿が復活する。


「とんでもなく大変なことが起こってますわね。なにはともあれ、この止められた5秒間が勝負……! ですわ!」

「くそっ、動けねぇ……」


 蒼真は考えを巡らせた。スタシスで止められる時間は約5秒。弓を引いて放ち、それが当たるまでには5秒以上はかかるだろう。撃って蘭香を倒そうとした場合、そのまますぐにインパクトロケットで飛ばれて、彼女の陣地に足が着いたらそこで負けだ。


 だったら、駆け抜けるしかない。残り20メートルほどの距離なら、全力で走れば3秒くらいだろう。


「わ、わ! 皆がどんどんキルされていきますよ!」

「ここからは瞬き厳禁よ、鍬渕先生」

「は、はい……!」

「この模擬戦、あと5秒で決着がつくわ」


 互いが互いの旗を持ち、陣地に帰れば終わりというところ。


 そこで、四郎が自陣で復活する。状況はまた2対2。


 ねこさんチームは、蒼真の持った旗を、この5秒でどう自陣に持ち帰るか。

 くまさんチームは、止まってしまった蘭香が動けるようになるまでの5秒を、どう使うかの戦いだ。

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