表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

4限目 一時限目、戦争。(2)

 それぞれが特殊な制服――戦争着を着用し、所定の位置についた。


 スタジアムのように客席がついている特別体育館の、長方形のエリアが戦場となる。一度戦いが始まると、決着がつくまでこのエリアから外に出ることはできない。


 それぞれの短辺の近くに電子フラッグが刺さっている。それぞれの旗から旗までの距離は、だいたい50~60メートルといったところか。


「いいわね? お互いの陣地にある旗を、自分の陣地に持っていけば勝ち。時間は無制限、何度でも復活して良いこととするわ」


 俗に言う基本ルールである。それぞれが得意とする武器を持ってきて良いと言ったが、目立つ武器を持っているのは蒼真だけだ。

 

 ねこさんチームの蒼真は、弓を持っている。舞冬の調べたデータでは、元弓道部の経験もあるようだが、実力は如何程か。


「いいか、俺が確実にアイツらを止める。お前らは俺を守れ」

「え〜、意外とやる気じゃん、蒼真ちゃ〜ん」

「うるせぇ。やるなら徹底的に叩き潰すだけだ」


 蒼真は弓を構えて、蘭香を睨む。


「クラス内でどっちが上かっていうのも、分からせてやらなきゃいけないだろうからな」

「ひゅ〜、燃えてるぅ〜♪」

「よし、なら突破口は僕が開こう! 日和くん、蒼真くんを頼めるかい?」

「いいよぉ〜。自信全然ないけど〜♪」


 蒼真の絶望的に低い協力ステータスの分を、B級の協調性を持つふたりが合わせることでカバーしてくれている。


「いやぁ、美女に囲まれて嬉しい限りだねぇ。ボクに任せて。きっと勝つよ」

「お気をつけてくださいまし? 星野さんも調子に乗らずに」

「椿ちゃん、ボクを心配してくれるのかい?」

「あ、キメぇですわ、無理ですわ! 手を握らないでくださいまし」

「やれやれ、つれないなぁ。そこの不機嫌な子犬ちゃんは、何も喋ってくれないしねぇ」

「……」


 2人のやり取りはまったく気にせず、蘭香は無言で手に持った野球ボールを何度か軽く投げて、キャッチする動作を続けている。


 ――なるほどね。ねこさんチームがそれなりに協力体制が出来上がってる中で、くまさんチームは微妙な空気ね。チームの和を乱しているのは間違いなく鬼怒川さん……でも、本人は乱していることにすら気づいてないのでしょうね――。


 そんなことを考えながら、舞冬はそれぞれの生徒に対してのデータを頭の中に蓄積させていく。


「では、これより模擬戦を始めます。学級戦争、開始!」


 舞冬が始まりの合図を告げた。


 蒼真を除いた5人が一斉に走り出す。まっすぐにコチラに走ってくる日和、四郎と異なり、くまさんチームの3人は散開するような陣形。まずは相手の陣地に存在する旗を取りに行かなければならない。距離にしておよそ30メートル。旗の位置には蒼真がいる。


「なるほどですわね。こっちのチームは全員で飛び出してしまいましたが、あっちは陣形が整ってるようですわ。おそらく鷹羽さんは、あの2人を囮にしようとしている……」


 くまさんチームの中では知力が高い椿が、それに気づき少し後ろに下がる。


「鬼怒川さん! 星野さん! お互いをカバーできる距離をキープして! わたくしは後方から支援と、旗の守備に回ります!」

「ごちゃごちゃせずとも、向こうの旗ぶんどって帰ってくるだけだろ! だったら」


 蘭香はその場で立ち止まり、野球ボールに自分の異能力(スキル)を使用する。


「アタシのインパクトで、全員ぶっ飛ばす!」


 先程の舞冬に放ったものとは比べ物にならないくらいの高い威力だ。豪速球で飛んだボールは、前方に走ってきていた日和、四郎を衝撃で吹き飛ばした。


「鬼怒川さん! それでは鷹羽さんの狙い通りですわよ!?」

「や〜ん! 服が重いぃ〜!」

「なんの! 受け身は取れた!!」


 日和は思いきり飛ばされてしまったが、四郎は崩した体制をすぐに戻し、蘭香へ向かって走っていく。


「うおおおおおおおお!!」

「な!? くそ、離せ!!」


 掴まれた蘭香はそのまま背負い投げを喰らう。


「がはっ!」


 背中が打ちつけられ、仰向けに倒れこんだ。戦闘着がそのダメージを重力に変換する。背中のあたりがかなり重い。立ち上がるのが難しいと感じる程だ。


「そこだ。くたばれ能無しチワワ」


 蒼真の張りつめた弓が、倒れた蘭香を捉えた。


「ボルトアロー……!!」


 矢に電力が混ざる。その矢は人間が放つ微量の電気を感知し、蘭香に向かって軌道を曲げながら進んでいく。空中で青白い雷光を放ちながら、不規則に軌道を捻じ曲げる。

 

 それはまるで、生きているかのように標的を追尾する“雷蛇”のようだった。

 

 背中が重く、仰向けに倒れてしまった彼女に、その矢は避けられない。


「くそ……立てねぇ。なんなんだよ、畜生!」


 眼前に迫る矢をかわそうと藻掻くが、上手く動かない。そのまま電磁矢(ボルトアロー)は、蘭香の胸部に突き刺さった。


『Kill! 鷹羽蒼真→鬼怒川蘭香』


 戦場に大袈裟に構えられた電光掲示板に、そのようなメッセージが表示された。

 

「10秒後、スタート位置に転送されます」


 機械音声と共に、蘭香はしばらく身体の自由が利かない時間となる。

 皆が戦闘を繰り広げている中、自分だけが地面に身体を預け、動けずにいる。

 この時間の屈辱は、蘭香にとって10秒が何倍にも感じられるほど苦しいものだった。

 

「ぜってぇ許さねぇぞ……鷹羽ぇ!!」

「弱い犬ほど、よく吠えるんだよな」


 最初のキルという大きな功績を特に喜ぶ様子もなく、蒼真は次の獲物を仕留めるために弓を構える。


「失敗だったねぇ、蒼真!」


 突如、蒼真の真横からそんな嫌味な声が聞こえてきた。見るとそこにいるのは、やはり星野怜恩だ。


「ボクをマークせずに、その矢を放ってしまえば、次を射るのに時間がかかるんだろう? そうなれば、ボクは自由がきくのさ。このゲームは3人の敵がいるんだから、当たり前だろう?」

「チッ、うるせぇな」


 弓を直接振り、近接攻撃をお見舞いする。思いっきり攻撃が腹部を直撃した。しかし、怜恩はその攻撃を喰らうと消えてしまう。

 

 霧のようにふわっと霧散したところで、蒼真は自分が術中にはまっていることに気が付いた。


「まさか、これが模倣(イミテーション)か……!?」

「その通り!」


 その声は遠くから聞こえる。ようやく起き上がった日和の前に、怜恩は立っていた。


「ボクの完璧な異能力(スキル)は、あらゆる人物の分身を作り出す模倣(イミテーション)! 相手を欺き完璧に勝利する、戦略家のボクに相応しい異能力(スキル)だよ!」

「はわわ、不審者がべらべら喋りながらこっち来る~! やばいやばいどうしよう~!」

「なにより、人数不利になってるこの10秒の間に、ボクが旗を拾いにいくはずないだろう? 狙われやすくて仕方ないじゃないか!」

「な、なんとかなって~! 異能力(スキル)開放! 静止する球(スタシス・オーブ)ぅ~!」


 日和が叫ぶと、白い光の塊が目の前に飛び出した。しかし、あまりにも遅い。秒速数センチというゆっくりと飛ぶ光の球は、運動能力が普通以下の生徒でも簡単によけられてしまうだろう。


 無論、怜恩にとってもかわすのは簡単だった。


「何を狙ってたか知らないけど、これで終わりさ! 人気俳優キック!」


 華麗な回し蹴りを披露し、その足を腹部に直撃させる。細い彼女の身体が折れるのではという衝撃を、戦闘着がやわらげつつ、ダメージ再現のために重量を強くしていく。


『Kill! 星野怜恩→春原日和』

「くぅ~、やぁらぁれぇたぁ~」

「これで人数差はなくなった。いや、()()()()()()、かな?」


 彼の言葉を合図にしたかのように、蘭香がくまさんチームの陣地で復活していた。


「よかったですわ鬼怒川さん! 国園さんが来ます。わたくし達ふたりで――」

「鷹羽ぇ!!」

「きゃあ!? ちょっと鬼怒川さん!?」


 蘭香は怒りに身を任せ、インパクトを使用。使用対象は床だ。

 触れたものを触れていた時間に応じて衝撃の威力を高めて放つ。これが彼女の異能力(スキル)衝撃(インパクト)である。

 それを床に使えば、当然衝撃で跳ね返るのは自分だ。その応用で、蘭香は蒼真へと一気に距離を詰める。


「チッ! コイツ、どこまでも俺を……!」


 なんとか矢を放ちけん制をするが、蘭香の怒りは止まらない。突き刺さった矢をものともせず、その重量を増した戦闘着と共に速度を増した頭突きをお見舞いした。


「がっ……!?」


 当然、蘭香自身も強烈なダメージを受ける。


『Kill! 鬼怒川蘭香→鷹羽蒼真』

『Kill! 鷹羽蒼真→鬼怒川蘭香』

「何やってやがるんですの鬼怒川さぁぁぁぁぁん!!」

「なんのなんの! まだ2対1でこっちの有利状況は続いてるんだからさ」


 今の戦闘に紛れて、怜恩がねこさんチーム陣地のフラッグへと手を伸ばす。


「ボクのイミテーションは、物質に干渉できないからね。これは自分で拾うしかな……い……?」


 瞬間、自分の身体が動かなくなる。まるで時が止められたかのように、全身の筋肉が硬直してしまっている。


「ふふふ、かかったねぇ、怜恩ちゃん。日和の異能力(スキル)にぃ~!」


 その言葉のあと、転送された日和が怜恩の前に立ちはだかった。


「日和の異能力(スキル)は、日和をキルしてもしばらく残るんだよね。後ろから怜恩ちゃんを追ってたかいがあったよぉ」

「ハッ……なるほどぉ。罠にかけられたネズミちゃんは、ボクの方だったか……!!」


 戦いはまだ始まったばかりだ。


 たったひとり、客席から6人を見下ろす杵埼舞冬は、彼らを見ながら真剣に計画を練り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ