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爵位と金を天秤にかけた政略結婚を受け入れた赤貧女伯爵は、与えられる美食と溺愛に困惑する  作者: 猫石


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☆会えないままの4週間と、成長と変化。

★今回のお話には、女性特有の月一の物の話が出てきます。 苦手な方は後半(昼食の食べ方を褒められるあたり以降)を読み飛ばしてくださいm(_ _"m)

「ジョシュア様はずっとお忙しいのね。」


 今日も届いた花束とカードに、私はつい、そう口にしてしまった。


「はい。 どうやら商会でのお仕事が立て込んでいらっしゃる様子です。 ポッシェ様には申し訳ないとご伝言でございます。」


 鏡台の前に座り、アンナに髪の毛を整えてもらっていた私は、鏡の中の自分を見た。


「そう……。」


 少し声のトーンが落ちてしまった私に、アンナが櫛を動かしながら訊ねて来る。


「やはり、お寂しいですか?」


(寂しい……のかしら?)


 私は首をかしげてよく考えてから、小さく首を振った。


「……寂しい、というよりは……お仕事が大変なジョシュア様のお体が心配なの。」


「あら、お寂しくはないのですか?」


 それには、首をかしげてしまう。


 ジョシュア様にお会いしたのは、お見合いの日、お屋敷に尋ねてきてくれた日、翌日の朝食の時の3度。 それから、お詫びのお花やお手紙をもらっているので、ジョシュア様を忘れたことはないし、気遣ってもらえていることを嬉しく思う。 が、『寂しいか』と言われると、悩んでしまう。


 どちらかというといつもならいるレーラがおらずに聞いたところ、『本日はお休みいただいております』と言われた時の方が正しく『寂しい』と素直に感じた。


 しかし、それを素直に伝えるのは失礼なのだろうなと思うので、どう伝えたらいいのだろうと悩んで……私は一番近い気持ちを言葉にした。


「ジョシュア様に最後にお会いしたのはこのお屋敷に来た次の日の朝ごはんの時だけだったでしょう? その後はもうずっと、お仕事でお会いできていないわ。 我が国一番の商会の会長だから、うんとお仕事が忙しいのでしょう? なのに、私はこのお屋敷で、皆に助けてもらいながら、お茶やお勉強をしているだけで……本当に申し訳ないと、思うの。」


 そう言うと、なるほど、とでもいうように頷いてくれたアンナは、ブラシを動かしながら話をしてくれる。


「そうですわね、 急に隣国からの商談が入り向かわれたり、こちらへ戻られてからもその事案でさらにお忙しくなられたようです。 ですがポッシェ様。 こんなにお忙しいことはめったにありません。 今回はタイミングが重なってしまっただけです。 家令の話では来週には落ち着かれるのではないかとの話ですわ。」


「そうなの?」


「えぇ、こんなにお忙しいのは、商会を立ち上げたり、やはり大きな商談を受けられるときだけ、滅多にありません。」


 アンナは私の髪を丁寧に梳き、かわいらしく編み込んでいく。


「それから、申し訳ないと思うとのことですが、ポッシェ様もお仕事をなさっているのですよ?」


「え? 私が?」


「はい。 こうして日々、様々なことを学ばれ身に着けていき、自身を磨かれる事で、今後、旦那様をお支えするために必要なお勉強をなさっていることこそが、まさにお仕事です。 ご覧くださいませ、背すじを伸ばして座られ、御髪の色もこのようにきれいな艶やかな栗色におなりですし、そばかすも少し消えて参りました。 立ち姿、歩かれる姿も美しく成られてきましたし、もちろん、お言葉使いも少しずつですが確実に女伯爵らしくおなりです。 勉強の賜物ですわ。 どうぞ、自信をお持ちくださいませ。」


「そうかしら? そうだと、良いのだけど……。」


 自分ではそんなに変わっていないように思えてため息を付けば、元気づけるようにアンナは声をかけてくれる。


「私もレーラもそう思っております。 大丈夫でございますよ。 ポッシェ様」


 顔を上げて鏡越しにアンナの笑顔を見ると、にっこり笑って頷いてくれる。


 それだけの事なのに、私は少しだけ自信が持てたような気がした。


「アンナにそう言ってもらえて、自信が持てたわ。」


「それはよろしゅうございました、ポッシェ様。」


 にっこりと笑いあった後は、昼食のために食堂へ向かう。


 踵の高い靴を履いて歩いても、時折くにゃりと足首が揺れてしまう事はあるけれど、回数も減り、歩き方を咎められることもなくなった。


 今日も、午前中はいつも通り図書室で勉強をした。


 授業は、セバスチャンから超一流だと言われる家庭教師サテイン男爵夫妻に変わり、厳しさを増した。


 経営学、領地経営学を教えてくれるサテイン男爵の講義には、最初の頃は全くついていけず、何度もため息をつかれたが、現在では用語がわからなくて授業を中断して説明を乞う、という事もなくなり、時折行われる小テストも8割は答えられるようになっていている(ただし、そうすると次の段階に上がるわけで、日々精進アルのみなのだが)。


 変わって、サテイン男爵夫人から習う淑女講座の範囲は本当に多岐にわたり、お茶のマナーや会話術、表情の使い方だけでなく、社交をするうえで隣り合う他国の会話だけでも出来ていたほうがいい、との事で多国語講座も取り入れられ始めた。


 最初は返答どころか問われている意味すら解らなかったが、現在は、簡単な質問であれば聞き取った後、辞書や教科書を使いながらではあるものの、返せるようになってきた。


 これには、歩行・ダンス訓練の際の会話も、隣国の言葉にされてしまったせい……ではなく、お陰もあるだろう。


(……私が知らなかっただけで、貴族って本当に大変なものなのね……。)


 と、あまりの不甲斐なさに泣いてしまう夜もあった。


 今まで家にいるばかりで何も勉強をしてこなかった自分を恨む。


 学校には行かせてもらえはしなかったが、もっと学ぶ機会はあったのではないかと思うのだ。


(じいやとばあやに、もう少しちゃんと教えておいてもらうべきだったのよね……食事のマナーとかもそう。 お魚とか、パンをお魚に見立てれば、ばあやに習えたんじゃないかしら?)


 なんて思うのは、魚の食べ方が本当に苦手だからだ。


 表を食べた後、裏返さないように骨をよけてから、裏側の部分を食べるとは、何だろうと思った。


 そして今日も、目の前にはお魚料理が並ぶのである。


 ぎゅっと、緊張しながらの昼食を食べ進める。


「カトラリーの使い方が、上手になられましたね。 ポッシェ様。」


 一度も指摘されることなく、緊張の昼食を終え、席を立つために椅子を引いてくれたセバスチャンの言葉に、私はほっとした。


「そう? セバスチャンにそう言ってもらえると安心するわ。」


「はい。 今日の昼食は魚料理でしたので少々難易度が高かったかと思いますが、十分及第点です。」


 昼食の時に出たのが魚料理だったため、ドキドキしながら食事を進めたのだが、それも褒められたのだ。


 ほっとしながら食堂を後にした私は、午後の授業に合わせ着替えをするために衣装室に入り、着ていたワンピースを脱いだ時に、お腹の下の方に何か違和感を感じた。


「……?」


「どうかなさいましたか? ポッシェ様?」


「……お腹が痛い……というのかしら……?」


 なんだか、しくしくとした、重くて不快な痛みをお腹に感じたのだ。


「……ごめんなさい、少しお花を摘みへ行ってくるわ。」


 一度脱いだ一度ワンピースを着せてもらい、衣装室から隣の御不浄へを向かった私は、下着を下ろして目を疑た。


「……え?」


 淡く赤く染まっていたのだ。


 慌てて御不浄を済ませると、そこにもその赤い色はついていて、目の前が真っ暗になった。


 頭の先から血の気が引いていって、目の前で星が散る。


「……あ、アンナ……」


「ポッシェ様!? どうなさったのですか?」


 目の前がくらくらする中、なんとか衣装室の部屋まで戻った私は、アンナの姿を見て足の力が抜けてへたり込んでしまった。


 それを見たアンナが慌てて駆けつけてくれる。


「どうなさったのですか? ポッシェ様。 真っ青です、お腹が痛いのですか!?」


「……」


 ゆるゆると頭を振った私は、震えてしまう声で助けを求めた。


「……血……出てるの……」


「血!? 大丈夫ですか? どこか……」


 一瞬慌てた顔をしたアンナは、すぐに納得したような顔をして、私をもう一度お手洗いへ連れて行ってくれると、衣装室へ戻り、小さな籠をもってやってきてくれた。


「ご気分がすぐれないかもしれませんが、まずは下着を取り換えましょうね。 それから、念のためにお医者様に見ていただきましょう。 その時にご説明も受けましょう。」


「……大丈夫かしら……なにか、病気っ?」


「御病気ではございませんよ。 大丈夫です。 ですが、午後からのお勉強は、今日は落ちつかれないでしょうからお休みをしましょうね。」


 てきぱきと淡い血の付いた下着を新しいものに変えてくれたアンナは、何やら大きなものを取り出し、それを当てて下着を穿かせてくれた。


「アンナ、これは?」


「これから必要になる物でございますよ。 詳しくはお部屋に戻られてからご説明いたしますね。」


「……?」


 穏やかに笑ってそう言ったアンナに、私は不安に思いながらも頷くしかなかった。

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