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爵位と金を天秤にかけた政略結婚を受け入れた赤貧女伯爵は、与えられる美食と溺愛に困惑する  作者: 猫石


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☆【ジョシュア側視点】1週間も! 会えない! だと!?

「何だこの仕事の量はっ!」


 商会本部の執務室に入ったジョシュアは、自身の執務机の上のみならず、応接セットの上、サービングカート2台分の上と、山積みになっているのを見て声を上げた。


「いったいなんでこんなことになっているんだ!」


「会長がお休みになっていた間に増えた仕事です。」


 わなわなと震えているジョシュアに対し、しれっとした顔でそう返したのは、短い黒髪をきっちりとオールバックにし、栗色の目にはきっかりとした感じの銀縁眼鏡をかけたびしっとしたスーツ姿の秘書のローグルで、そのままにこりともせず彼は書類の山を指さした。


「よろしいですか、会長。 執務机の上、応接セットの机、サービングカート1,2。と、しっかりと仕分けし、優先順位通りに置いてありますので、本日中に目を通していただき、決裁もしくは却下をしていただきたいと思います。 それから本日は11時より食料品部門の者と試食を兼ねたランチミーティングが入っており、19時からは前日キャンセルされたサンクサイウ商会との会談が入っております。」


「ランチミーティングに会食!? ちょっと待て、これ、いくらあると思っているんだ。 それなのに……」


「そんなに多くはありません、300ほどです。」


 慌てたジョシュアにしれっと返答するローグルだが、ジョシュアも負けてはいない。


「300ってお前! ちょっとこれはないだろう? なんでこんなに……っ」


「なんでこんなに、でございますか?」


 うんざりだ、という顔をしたジョシュアに向け、こめかみを押さえてわざとらしくため息をついたローグルは、眼鏡を引き上げながら背筋を伸ばした。


「会長。 このお仕事のたまった原因と、スケジュールの詰まり方は、貴方様がこの1週間のうち、一目ぼれしたご令嬢のために放り出したり手につかなかった4日間の結果です。 無駄に過ごした4日間を、7日間でリカバリーするのです。 自業自得でしょうが仕方がありません、是非、すぐに、やってください。」


 さぁ、さぁと机に座るように促すローグルにジョシュアは首を振る。


「いや、そんなには休んでいないだろう!?」


「そんなに休んでいない、ですか?」


 きらり、と、眼鏡が光ったような気がした。


「では、僭越ながら、お教えいたしましょう!」


 ジャケットの内ポケットから取り出した手帳を開き、そっと人差し指を滑らせてローグルは読み上げた。


「顧問弁護士であるカミジョウからお見合いの話を受けられた貴方様は、まず絵姿に一目ぼれなされ、そのままテールズ伯爵家の事を調べるため、関係各所への連絡をされ、ほぼ半日、時間を費やされましたね? この日に予定されていたランチミーティングをキャンセルしておりますので本日入れさせていただきました。

 翌日の午後からはお見合いでお出かけでいらっしゃいましたね。 そのために宝飾部門の視察を延期しております、明日入れさせていただきました。

 それからそのあと2日間、初恋が苦しいとろくに書類に手が付かずいらっしゃいましたね。 あれは本当に無駄なお時間でございましたね……出勤はしていらっしゃいましたが仕事をしていないと判断して書類の整理はさせていただいておりましたが、まぁ酷かった。 その日の視察とランチミーティングは明後日に組ませていただいております。 そして昨日ですが、午前中はお休みを取られておりましたが、まさか午後までお休みなされるとは思いませんでした。 衣類部門との会議は5日後に変更しております。

 それと、サンクサイウ商会との会食のキャンセルしていらっしゃいますので本日再設定させていただいております。 ですので正味4日間です。 なにか反論はございますか?」


 はっきり言ってぐうの音も出ない。 なんて完璧なスケジュールの管理と厳しさだろう。


 一番几帳面だから、と、ローグルを秘書にしたのは間違いだった、としみじみ思いつつ、ぐうの音の『ぐ』だけでも反論しようとぼそっと呟く


「随分、厳しくないか?」


「これはビジネスです、まったくもって厳しくありません。」


 きっぱりと言い切られ、ジョシュアは黙り込むしかなかったが、ローグルはその『ぐ』が気に入らなかったのか、追い打ちをかけて来る。


「現にこうして書類仕事は増えておりますし、会食2件、夜の会食1件、視察が3件延期になっております。 それと会長、今こうして私が説明している間に4件は処理が出来たのではないでしょうか。 言っておきますが、今日から1週間は、早朝から深夜まで、会長が放置された仕事をぎゅうぎゅうに詰め込んでおりますので、ご休憩時間が減るだけですよ。 素早く仕事に取り掛かって頂けたらと存じ上げます。」


 まさに一刀両断。 返り打ちで惨敗である。


 ぱたんと手帳を閉めジャケットの内ポケットにしまったローグルは、溜息一つついた。


「さて、どうぞお座りください、珈琲くらいはご用意しましょう。」


「鬼だろう、お前!? 今日は、出来ればポッシェ嬢と夕食……。」


「今日の夕食どころか1週間は朝食も夕食も御無理です。 お屋敷の方には連絡しておきましたのでご安心ください。」


「鬼か!」


「ほら、そんな話をしている間に2つは書類が終わりますね。 いいんですか?無駄話をすればするほど、家に帰る時間が少なくなりますよ。」


「うぅぅ~! うわぁぁぁ!」


 ソファに持っていた鞄を放り出し、執務机に座ったジョシュアは、優先順位【1】と書かれた紙の置かれた書類の山から手に取り始めた。


 サインをし、決裁印を押し、修正箇所を赤いインクのペンで入れながら、次々とジョシュアは書類仕事を終わらせていく。


(やればできるじゃないですか。)


 そんなことを考えながら、ローグルはネルドリップ法でコーヒーを入れ始めた。





 そんなこんなでランチミーティングまでの3時間、みっちりと書類に向かい合ったジョシュアは、執務机の胃上にあった書類を片付け、立ち上がるとジャケットの袖を通したところで、扉をノックする音とともに、軽薄……もとい、軽快な声と共に、弁護士・カミジョウが入って来た。


「ジョシュア会長、こんにちは~。」


「帰れ。」


「そんな!」


 間髪入れない発言に、傷ついたようによろよろッと壁に寄り掛かったカミジョウを放置……と思ったジョシュアは、机に戻ると引き出しの中からメッセージカードを取り出し、素早くペンを走らせた。


「カミジョウ、今日は屋敷の方にポッシェ嬢の書類の件で行くと言っていたな。 その時にこれを屋敷に届けてくれないか? 花束と一緒に。 夕食を共に出来なくてすまない、と。」


 慌てて蝋を溶かし、封蝋を押して冷ますジョシュアに、カミジョウはにやにやとしながら深く頭を下げた。


「はい、結構ですよ。 セバスチャンさんにお渡ししておきます。」


「すまないな。 それで、今日は何だ?」


「そのポッシェ嬢の、親が出てきそうなんですよ。 王宮の戸籍管理部門から、こちらに連絡がありました。」


 その言葉に深く眉間にしわを寄せたジョシュアは、冷たく言い切った。


「彼女にはもう二度と会わせたくない。 私たちの前に現われる前に、しっかりとルートをすりつぶせ。」


 ジョシュアのその言葉に、カミジョウは頷く。


「かしこまりました。」


「それでしたら南の農場がよろしいでしょう。 開拓するのに耕夫の手が足りないと言われていますからね。 すぐにでも雇ってくれますよ。」


 カミジョウとジョシュアの話に、終わった書類を片付け、新しい書類を机の上に用意しながら淡々とローグルが顔も上げずにそう言った。


「おや? お堅いと評判のローグル殿から情報をいただけるとは。」


 にやにやと笑いながら、胸のポケットから一枚のメモをローグルに渡すカミジョウ。


 そのメモの走り書きに目を通し、小さく溜息をついたローグルは、首を振る。


「まったく。 これ以上会長に余計なことで仕事を遅らせていただきたくないんですよ。 カミジョウも、こんな余計な話を持ってくるのは、最低でも一週間後にしてくださいね。 ……と、言いたいところですが、会食前に情報頂けて助かりました。」


「情報の交換、という事で。」


「……では会長、ランチミーティングの時間になります。」


「あぁ、解っている。 カミジョウ、頼んだぞ。」


「かしこまりました。 可愛らしい花束と共に、おとどけしておきますよ。」


 ポッシェへ手紙をジャケットの胸ポケットに丁寧に淹れたカミジョウは、ローグルを連れて執務室を出ていったジョシュアに、ひらひらっと手を振った。

お読みいただきありがとうございます。

お気に入り登録、エール、本当に嬉しいですっ!


いか、私的なお知らせ

『もふもふと師匠と弟子ちゃん』を一度休止します

代わりに

『婚約破棄されて修道院に送られたので、今後は自分のために頑張ります!』を公開します

こんなタイトルですが、恋愛ものではありません~。

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