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爵位と金を天秤にかけた政略結婚を受け入れた赤貧女伯爵は、与えられる美食と溺愛に困惑する  作者: 猫石


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☆薔薇の花と、優しい気持ち。

「そういえば、お迎えをしていないけれど、ジョシュア様は、まだお帰りにならないの?」


 ただひたすら、しっかり真っ直ぐ歩く練習と、ダンスの基本ステップという物の練習を言われるがままひたすら頑張った私は、一度部屋でさっとシャワーで汗を洗い流したあと、新しいワンピースに着替え、レーラとアンナと共に食堂に向かった。


 その途中、ふとおかえりにならないジョシュア様を思い出して尋ねると、レーラが穏やかに笑いながら教えてくれた。


「はい。 家令の話では、本日はお取引先の方とお会食のご予定が入ったのでお帰りが遅くなられるとの事でございます。」


 そう、と私は頷いた。


「ではお夕食は私だけでいただくのね。」


「さようでございます。」


「わかったわ。」


(ジョシュア様とご一緒でないから、しっかりマナーの練習ね)


 う~ん、とそんなことを考えながら歩く私。


 食事を食べている最中にいろいろと指摘を受けるのは、ありがたいことなのだけれども、なかなかに疲れるのだとお昼に感じていたからだ。


「お寂しゅうございますか?」


「……寂しい?」


 そう問いかけてきたレーラに、そういった意味ではなかったのだけれど、と思いながら、少し考えて答える。


「……寂しい……というのとは少し違うと思うわ。 ジョシュア様のお屋敷で一人でお食事をいただくのは不思議な感じ……かしら?」


(後、皆がなかなかに厳しいから、緊張でお食事の味を味わう暇がないんです。 とは言えないものね。)


「さようでございますか。」


 私の返答ににこっと笑ってそう答えてくれたレーラに、私もにっこりと笑っておくと、食堂の中に入った。


「ポッシェ様、こちらにどうぞ。」


 食堂の中はセバスチャンが待っていて、朝と同じ席に私を座らせてくれる。


「ポッシェ様。 本日は旦那様は会食のためお一人でのご夕食となります。 お帰りも遅くなられますようで、お先に休まれるようにと先ほど連絡がございました。」


「えぇ、先ほどレーラとアンナから聞いたわ。 ジョシュア様はお仕事がお忙しいのね。 お体を壊されないといいけれど。」


「ポッシェ様がご心配なさっていたと聞かれましたら、旦那様もお喜びでございますよ。 ポッシェ様のことを心配しておいででしたから。」


「あら、私は、お屋敷の中でお勉強を教えてもらっているだけなのに。」


「それでも、でございましょう。 旦那様からこちらが届いておりますよ。」


 セバスチャンの言葉に、食堂の扉の傍にいたメイドがやってきて、私の前に可愛らしいピンクの花束と一通の封筒が載せられたトレイを差し出してきた。


「ポッシェ様、どうぞ。」


「これは?」


「ジョシュア様からポッシェ様へ、ご夕食を共に出来ないのでせめて、との事でございます。」


 メイドの代わりにセバスチャンが答えてくれる。


「本来であればご一緒したかったとのことですが、どうしてもお仕事の御都合が付かず申し訳ない、との伝言を受けたまわっております。」


「わたしに? ジョシュア様が?」


 受け取った小さな花束は、ピンクのバラのと小さな白い花がぎゅっと詰まった可愛らしいもので、添えられたお手紙の封筒も、急遽誂えた物とは思えないような品のある美しい物だった。


「……今読んだ方がいいのかしら?」


 それには、返答はなくにっこりと皆が微笑んだため、開けてもいいのだろうと判断して手に取り封筒を裏返すと、セバスチャンがペーパーナイフを用意してくれた。


「ありがとうございます。」


 お礼を言いってそれを受け取ろうとすると、そっと近づいてきたアンナが花束を預かってくれた。


 丁寧に封を切り、中のカードを取り出す。




『ポッシェ嬢


 新しい生活で慣れない事が多く、大変な時に


 共に夕食をとれず、話も聞いてあげられないことを大変に申し訳なく思う。


 勤勉な君が、無理をしないようにと身を案じている


 ジョシュア。』




「……まぁ。」


 カードには綺麗な花の模様が入っていて、金色の枠の中には力強い字で、そのように今日一日の労いと素直な謝罪の言葉が書かれていた。


 飾らない率直な言葉は心から嬉しい。


 そう思いながらカードから視線を上げると、私の様子を見ていたらしいセバスチャン達も、私ににっこりと笑ってくれた。


 少し恥ずかしく、居たたまれなくなって私は肩を竦め笑った。


「ジョシュア様は、お優しいのね。」


「ポッシェ様の事を、大変に御心配し、案じていらっしゃるのでございましょう。」


「……そうなのね。 嬉しいわ。」


 胸の中がほっこりと温かくなるのを感じてもう一度カードの文字に視線を移す。


(お父様達と違って、なんて力強くて優しい字。 孤児院でお育ちになったとおっしゃっていたのに、こんな綺麗に文字をお描きになるなんて、きっと物凄く練習なさったのね。 ジョシュア様は、努力家なのだわ。)


 そんなことをしばし考えていた私に、少ししてセバスチャンが声をかけてきた。


「ポッシェ様、そろそろお食事を始めさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「あ、はい。 ごめんなさい。 お願いします。」


 慌ててカードから顔を上げ、封筒にそれを戻すとアンナが花束と共に預かってくれた。


「では、運ばせていただきます。」


(私も、ジョシュア様の様に頑張らなきゃ。)


 運ばれてきたお食事を、私は皆に丁寧に教えてもらいながら食べ進めた。









「それでは、お休みなさいませ、ポッシェ様。」


「おやすみなさい。」


 夕食を食べ、部屋に戻って貴族名簿に目を通しながら少しお茶をいただいた後、入浴をし、(体を洗うのだけは自分でしてもいいことになった……よかった!) 明日のために、と、3人がかりでの全身のマッサージなる物を受けた私は、明かりを落とし、挨拶をして出て言ったレーラとアンナを見送った後、座っていたベッドのふかふかの枕に顔を埋めた。


 はぁ~っと、大きなため息を一つ。


「頑張るとは決めたけれど……とっても疲れたわ……。」


 ころん、と体の向きをうつ伏せから仰向けに直し、ん~っと体を伸ばしてから、もう一つ息をつく。


 そして、指折りに、今日習ったことや指摘されたことを思い出す。


 言葉使い、歩き方、笑い方、椅子からの立ち上がり方、座り方に、お菓子の食べ方からお茶の頂き方まで。


 どれも今までばあやに習っていた程度であまり深く気にしたことがなかった事ばかりだったから、これからは本当に気を付けて毎日を過ごさなきゃと考える。


「……私、頑張っていけるかしら?」


 少しだけ不安になって、ベッドの上でころんと体を横向きにすると、ベッドの隣に置かれたチェストの上のお花に気が付いた。


「お花。 ここに飾ってくれたのね。」


 体を起こし、花にそっと手を伸ばす。


 少し触れると、ふわっとジョシュア様から贈っていただいた薔薇の甘やかな香りが鼻をかすめる。


 可愛らしいピンク色の花の色や、香りに触れていると、なんだか少しくすぐったいような、暖かいような気持ちを感じる。


「お仕事でお忙しいのに、ジョシュア様は私を気遣ってくださったんだもの……。 私も頑張らないと。」


 うん、と頷いてシーツの中に戻った私は、ふと、まだおかえりにならないジョシュア様を思い出した。


(ジョシュア様、お仕事でご無理をなさっていないといいのだけれど。 ……明日の朝お会い出来たら、お花のお礼と、それからお体は大丈夫か、聞いてみよう……。)


 そう考えて、私はベッドに入って目を閉じた。

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誤字脱字報告も、合わせてありがとうございます!


1日目がとぉっても長かったですが、ここからはサクサク……いきたいです……(希望)

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