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爵位と金を天秤にかけた政略結婚を受け入れた赤貧女伯爵は、与えられる美食と溺愛に困惑する  作者: 猫石


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☆踵の高い靴もダンスも社交の一部です……?

「さぁ、出来上がりましたよ、ポッシェ様。」


「……えぇと、はい……?」


 じいやとばあやとの短いけれど心落ち着く穏やかだった休憩の終わりが終わり、勉強ですとお迎えに来てくれたアンナの手によって、なぜかわたしは衣装室で午前中着ていたワンピースよりも豪華なドレスを着せられ、少し踵の高い靴を履かせられた。


「アンナ、えっと、この靴じゃなきゃ駄目なのかしら?」


 普段、ぺったんこの靴しか履いたことのない私にとって、いくら高さがお母様の履いていたうんと踵の高い靴の半分もない事は解っていても、なんだか足元はおぼつかず、歩けるか不安でしかない。


「まだまだこれでも低いくらいでございます。 さ、ポッシェ様、レッスン室へご案内いたしますね。」


「レッスン室……?」


 慣れない踵の高い靴に時折ふらついたり、階段を落ちそうになりながらも(アンナがいるから大丈夫だった)しながらも、何とかついたレッスン室と言われるお部屋の中は、大きなピアノと椅子が数脚以外は大きな姿見鏡しかないのにとても広いお部屋で、そこではセバスチャンとレーラが話し合いをしていた。


「お待たせして申し訳ありません。」


 こちらに気付いた2人に謝ると、彼らはにっこりと笑ってくれた。


「いいえ、ポッシェ様。 大丈夫でございます。 さて、午前中は座学に当てさせていただきましたが、午後からは美しい歩行の練習を、歩行方法を習得されましたらダンスの練習をする時間にさせていただきました。」


「歩行練習に、ダンス? ですか?」


「さようでございます。」


 首を傾げた私に、セバスチャンはにっこりと笑った。


「失礼ながら、ポッシェ様は、ダンスの御経験はおありですか?」


 それには、首を振るしかない。


「えぇと、ダンスという物があるという事は、マナーの本では見たことがありますが、実際にはどういったものなのかは見たことがありません。」


「あぁ、やはりそうでございましたか。」


「す、すみません!」


「いえ、ポッシェ様は謝らないでくださいませ。」


 セバスチャンの言葉が、呆れたようなため息交じりのように聞こえたため、私は慌てて頭を下げようとしたが、セバスチャンの方が私に頭を下げて『申し訳ございません』と言って来た。


「ポッシェ様が悪いのではございません。 むしろ想定内でございますのでご安心くださいませ。」


(想定内……ってなんだったかしら?)


 と思いながらも、それを口にしないように笑うと、こちらへお座りください、とアンナによって椅子に座らされた。


「まずは歩行訓練でございますが、一度、私とレーラでダンスの基本的なステップ……いわゆる決まりの動きですね。 そのお手本をお見せしてしたいと思います。 これが3か月後に目指す完成系となります。 曲の前半は全体の、後半はレーラが踊る様子をご覧ください。」


(最初に、私が目指す目標を見せてくれるって言う事ね。)


「わかりました。」


 頷いた私に、セバスチャンも頷いてくれた。


「では。 はじめます。 アンナ、伴奏を。」


「かしこまりました。」


 アンナがピアノの前に座ると、お部屋の真ん中で、セバスチャンとレーラが背筋を伸ばして向かい合って立つ。


 お互い目配せし、頷いたアンナの手によって弾かれるピアノの音に合わせ、セバスチャンとレーラは緩やかにお辞儀をしあい、手を取り合い、お互いの背中にゆっくりと腕を回した。


 優雅で穏やかなピアノの曲に合わせ、セバスチャンとレーラも流れるように踊り出す。


(わ、綺麗……あ、違ったわ。 前半は二人の動き、後半はレーラの動きをよく見ておくのだったわね。)


 二人の姿を美しいと思いつつ、言われた通りその動き方をじっくりと観察する。


 レーラの足が前に出たり後ろに下がったり、きゅっとつま先の向きを変えたり、くるくるっと回ってみたりと、一見ものすごく穏やかに踊っているように見えて、足元はかなり忙しい感じだ。


 しかも足元がそんなに忙しいのにお顔は微笑んだまま、上半身も音楽に合わせてお顔と一緒に、反らされたり向きが変わったりと、忙しい。


(混乱したりしないのかしら? 足元を見てないのに足を踏んでしまったり……しないのもすごいわ)


 しかもレーラは進行方向を見ていないときが多くて、セバスチャンが一緒に踊っていると解っていても、怖くないのかととても心配になってしまう。


(でも、踊っている姿はとっても綺麗。 踵もあんなに高い靴なのに、スカートの裾がふわふわと動いて、あんなにきれいに動けるのね。)


 じっと見ていると、あっという間に曲が終わり、2人の動きも緩やかに止まり、会釈をして離れた。


 そのあまりの素晴らしさに、拍手をしながら二人を迎えると、セバスチャンがにっこりと笑った。


「いかがでございましたか?」


「とっても綺麗でした! 二人ともお上手なんですね。」


「ありがとうございます、おほめ頂き光栄です。 このダンスを、ポッシェ様にも3か月のうちに覚えていただきたいと思います。」


「え!? 私が、ですか!?」


(そうだった……これが目標だったんだわ……)


 解っていたはずなのに、私は拍手する手を止めて声を上げてしまった。


「さようでございます。」


「……あの、絶対に無理の様な気がします……私、この靴でこのお部屋に来るのも正直精いっぱいだったんです。」


 そう、恐る恐る声を上げる私に、にっこりとレーラが笑う。


「恐れながらポッシェ様。 ダンスは社交界、特に華やかな夜会では、得手不得手は確かにございますが、一通りの基本としてできなければならないのでございますわ。 特にデビュタントの場となれば、パートナーとまず1曲踊り、その後は殿方のお誘いがあればそれにお受けする形で踊ります。 もちろん、2曲目以降は断られても結構でございますが、1曲目は必ず踊るのがしきたりでございますし、社交を行う上で、ダンスは重要なのです。」


 そこまで聞いて、私はなぜ? と首をかしげた。


「それは、踊れないと社交が出来ない、という事ですか?」


 そう聞くと、レーラは首を振って困ったように笑った。


「そう言うわけではございません。 先程も申し上げました通り、得手不得手がございます。 パートナーと共に他のお客様とあいさつを交わし、歓談を楽しむだけでも十分社交になりますわ。 しかし、ダンスがお上手にできれば、それだけでも夜会への招待も増えますし、ダンスをすることでお相手の方から引き出せる有益な情報や、ダンスのお誘いから、新しく交友関係が広がり、商談につながる事も多々あるのでございます。 旦那様がウォード商会の会長であられるポッシェ様には、是非身に着けていただきたい技能なのでございますよ。 商売をするにあたって、チャンスはいくらあっても良い事なのですから。」


「……な、なるほど……?」


(難しい話はよくわからなかったけれど、ジョシュア様のお仕事のチャンスが増えるって事よね……?)


 なるほど、と、私は半分くらいしか理解できなかったけれど、素直に頷いておいた。


「でも、私にさっきみたいに踊れるかしら?」


 ちょっと不安になりそう呟けば、セバスチャンもレーラもアンナもにこやかに笑ってくれた。


「最初から上手な方はいません。 少しずつでよろしいのです。 ただ、ポッシェ様の場合、最初の社交の場が3か月後に迫っております。 まずは基本の形だけをしっかり覚えるようにいたしましょう。 そのためにまず、姿勢良く歩くところと、基本のステップを覚える事から始めましょう。」


「姿勢良く歩く?」


「はい。 これも、見たほうがわかりやすいと思いますので、まずはアンナがお手本をお見せしますね。」


 レーラがそう言うと、少し厚みのある本を持ったアンナは、それを頭の上に置き、床に引かれた白い線の上を、しっかり前を向いて歩きだした。


「え? アンナ、危ないわ。」


 声を掛けようとした私を、レーラがまぁまぁと制止した。


「大丈夫でございますよ。 ほら、ご覧ください。」


 その言葉通り、まっすぐ前を向いた視線を一度も逸らすことなく、背筋を伸ばし、すっすっと、あっという間に白い線の最後まで最後まで歩ききったアンナは、頭から本を下ろしにっこりと笑ってくれた。


「いかがでございますか?」


「すごいわ! 吃驚しちゃった。 アンナは、下を見なくて歩いて怖くないの?」


「大丈夫でございますよ。 コツを掴めば難なくできるものです。 ポッシェ様はまず、ヒールの高い靴でふらつかないようにまっすぐ歩くところから始めましょう。」


「……そ、そうだったわ……この靴で歩いたりダンスをしたりするのね。」


 私は自分の足元を見て、溜息を一つついてしまった。


 こんな不安定な履物、考えた人が憎いとも、ちょっと思ってしまうくらいだ。


「さようでございます。 では、練習を始めましょう。」


「はい、よろしくお願いします。」


 ひとつ、溜息をついた私は、よし、と、アンナの手を借りて椅子から立ち上がった。

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お休みいただきありがとうございますm(_ _"m)

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