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爵位と金を天秤にかけた政略結婚を受け入れた赤貧女伯爵は、与えられる美食と溺愛に困惑する  作者: 猫石


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☆山積みてんこ盛りお勉強

 自分の部屋に戻っても。


「どこから手を付けたらいいのかしら……?」


 目の前に置かれた分厚い本の山に、私は途方に暮れていた。


 朝食後、図書館へ連れて行かれて始まったのは一般教養と王国史、それから正しい共用語の使い方。


 それらをみっちり昼食まで行った後は、昼食……これはお茶会形式で、目の前にアンナ、レーラを据えてじっくりと行われた。


 気が付いたのは、アンナもレーラも、私よりもよっぽど上手にお茶を飲んで、お菓子を食べていること。


 お話の進め方もとても上手。


 私が口ごもっていると上手に誘導してくれるし、軽々しいことをいえばそれは出しては駄目な話題です、と止めてくれる。


 ここまでは話をしてもいいこと。


 これ以上は口にせず、穏やかに話をそらしたり、濁したりするように話すそうだ。


「難しいのね……。」


「さようですわね。 迂闊に口を開くよりは、聞き上手になられることをお勧めしますわ。」


「聞き上手?」


「はい。 ゆっくり慣れていきましょうね。」


 レーラはそう言うけれど、相手の言葉を聞いてお返事するって、それはとても難しいと感じる。


「お返事に困ったときは、肯定も否定もせず、微笑んでおられてもいいのですよ。」


「それだと曖昧じゃないかしら?」


「曖昧に終わらせてしまうのですわ。 しかしポッシェ様のおっしゃるとおり、明確な返答が必要な場合もございますね。 徐々に慣れて参りましょう。」


 アンナがそう言ってくれるので頷いたが随分と難しい事のように思われて考え込んでいると、レーラが笑ってくれた。


「昼食も終わったことですし、いろいろお勉強されたのでお疲れでしょう。 次の授業まで、少々休憩をとりましょう。 ポッシェ様、お部屋でお休みになられますか?」


「はい、そうします。」


 ようやく頭を休める事が出来る! と、少しうれしくなって部屋に戻ってきたところなのであるが……。


 宿題が、置いてありました。 と、いう状況です。


「お勉強に、マナーに、緊張……。 たった半日なのに、とっても疲れたわ……。」


 置かれた宿題の本を目の前に、はぁ、と息を吐いて私は長ソファに座ると、そのままぱたっと体をクッションに埋めるように倒した。


「王国史って、社交の何に使うのかしら? 共用語の使い方……普段の喋り方では駄目というのは解るけれど……」


 うぅ~ん、と頭を悩ませながら、私はもうひとつ、溜息をつく。


「庶民になった方が、よっぽどよかったのではないかしら?」


 じいやとばあやに十分なお給金を渡してやめてほしいから、と、安易に頷いてしまったけれど、ちょっとだけ後悔をしている。


 すぐに払ってあげられて、しかも慰労金まであげられる! と聞いて飛びついてしまったけれど、私は契約を守るどころか、お引っ越し早々に浪費三昧をしてしまったし、お食事で倒れてしまうし、こんなに一杯勉強をしなければジョシュア様の婚約者としても役に立たない、なんて思わなかったのだ。


「全部の問題がいっぺんに解決するからと、楽観的に考えすぎてしまっていたのね、私……。」


 はぁ~っと溜息をつきながらクッションを抱きしめる。


「今考えれば、シモジョウさんから提案されたとおり爵位を返上して働いて、お給料を少しずつ仕送りをするっていう方法だってあったんだわ。」


 ぼそっと呟いた時だった。


「お嬢様からの仕送り、なんて、恐れ多くて使えませんよ。」


 慣れ親しんだ声が聞こえて、私は体を跳ね上げた。


「ばあや! じいやも!」


「ノックをしてもお返事がないので心配いたしましたよ。 さぁさ、お嬢様。 お茶をお持ちしましたぞ。」


 カラカラと音のならない綺麗な金のサービスカートを押して入ってきたばあやとじいやが私の方を見てにこにこと笑ってくれる。


 私の傍までくると、じいやはクッキーと先日も食べたチョコレートというお菓子の乗った小さなお皿を目の前においてくれ、ばあやがお茶を淹れたカップを出してくれる。


「どうぞ、お嬢様。」


「ありがとう~。 ……ドクダミ茶ね。 ちょっと飲みたくなっていたの。」


 ばあやから受け取ったカップに注がれていたのは、元々のお屋敷で飲んでいたドクダミ茶で、今朝飲んだミルクティよりも癖があるのに落ち着くのは、ずっと飲んできたもののためだろう。


「はぁ、美味しい。」


「笑顔が出て、安心しましたよ、お嬢様。」


「わたしもよ。 じいやとばあやにあえて安心したわ。 このお屋敷で働くと昨日ジョシュア様はおっしゃっていたけれど、昨日はあれからどうしたの? 今日は今までどうしていたの?」


「まぁまぁ、お嬢様。 少し落ち着かれてくださいませ。」


 聞きたいこと、言いたいこと、確認したいこと。


 いっぱいあって、それを全部言おうとした私に、相変わらず、優しげな表情でニコニコとしているじいやが教えてくれた。


「私も侍女長も、あの後はちゃんと、息子たちの待つ家に送っていただけましたよ。 それに、お嬢様が私たちのためにと約束してくださった伯爵家での未払いのお給金に退職金、それから慰労金まで、それはびっくりするほどに頂きました。 それから、こちらのお屋敷にいらっしゃる間は、お昼からの休憩時間だけ、お嬢様のお話し相手として雇っていただくことになったのです。 それもこれも、お嬢様のお陰。 ……お嬢様、我々のために、本当にありがとうございます。」


「ありがとうございます。 わたくしからも、お礼申し上げます。」


 じいやとばあやの嬉しそうな表情と言葉に、私はほっと胸をなでおろした。


 ジョシュア様が嘘を言うとは思わないが(契約書の事もあるし)、約束した以上に、私の事も、じいやたちの事も大切に扱ってくださったことには本当に感謝しかない。


「そう、良かったわ。 じゃあ私は、お約束を守ってくださったジョシュア様のために、うんとお勉強を頑張るしかないわね。」


(ちょっとだけ嫌になってしまっていたけれど、じいやとばあやのためなら頑張れるわ!)


 よし、と、力を込めてそう言うと、先ほどまでの笑顔が曇り、至極心配したような顔でじいやは私を見た。


「伺いましたよ、社交界に出るために伯爵家当主として恥ずかしくないようにたくさんお勉強をなさるとか。 伯爵家におりました時に、折に触れてはお嬢様に一応は学校で習うような勉学や一通りのマナーはお教えしておりましたが、しかし老齢の我らのお教えしたことです。 どれだけ役に立つか……申し訳ございません。 しかし、どうかご無理なさらないでくださいましね。」


「大丈夫よ、じいや! ばあやの淹れてくれたお茶を飲んだら元気が出たわ!」


 ちょっとだけ胸を張ってそういうと、心配げに笑ってくれたじいや。 しかし反対側で、ばあやが机の上に置かれた本を心配げに見て言った。


「私の淹れたお茶で元気になってくださったのはよろしゅうございましたが……お嬢様は、今、休憩中とお伺いしましたが、こちらの本は……?」


「……それは、お暇な時間の時に読むと決めた、貴族名簿と王国史の教科書です……。」


「貴族名簿、でございますか?」


「そうなの……。 ジョシュア様のお商売でお付き合いがある方はあかい紐が入っていて、気を付けるべき相手は青い紐が入っているのですって。 お顔と、お名前と、領地と特産品を覚えておくようにと言われていてね。」


「それは大変でございますね。」


「……私は社交界って出たことがないからわからないけれど、大変なのね。 なんでお母様はあんなにお茶会に夜会が大好きだったのかしら……?」


「「さようでございますね……。」」


 私達3人は、顔を見合わせて、それから首をかしげたのだった。


いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。

週末は低気圧との戦いのため少々お休みいただきます。

お気に入り登録、エール、本当にありがとうございます。


申し訳ございませんm(_ _"m)

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