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爵位と金を天秤にかけた政略結婚を受け入れた赤貧女伯爵は、与えられる美食と溺愛に困惑する  作者: 猫石


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☆ジョシュア様と朝ごはんのマナー教室

「おはようございます。 ポッシェ様。」


 アンナとレーラと共に食堂に向かうと、そこにいたのはセバスチャンや数人の使用人さんだけで、ジョシュア様の姿はまだなかった。


「おはようございます。」


「そこは、おはよう、で、結構でございますよ。」


 にこっと笑ってそう言ったセバスチャンに椅子を引いてもらいながら座った私は、ひとつ、頷く。


「そうなのですね。 解りました。 えぇと、ジョシュア様はまだいらっしゃっていないのですね。」


「はい。 ですがもうすぐいらっしゃいますよ。 さて、その前にポッシェ様。 こちらをどうぞ。」


 椅子に座ってそこまでお話した私の横に立ったセバスチャンさんは、何やら一冊のファイルを私に差し出してきた。


「え、あ、はい。」


 真珠色のファイルを開けると、小さな文字がいっぱい書かれた書類が入っていて……最初のページをよく見ると、そこには、テーブルマナー、会話術、お茶の基礎知識、入れ方、頂き方……等、たくさんの項目が書かれていた。


 表紙の裏には、一日の時間割まで書いてあるのだが、休憩時間はほとんどなく、朝から晩までしっかりと授業が組み込まれている。


「あの、これは?」


「こちらは、本日よりポッシェ様に学んでいただく事柄をまとめた教本にございます。 ポッシェ様には女伯爵としてふさわしい知識、教養、マナーを身に着けていただくために、様々な授業を受けていただくように予定を立てさせていただきました。」


「これを、全部……?」


「はい。 これでも最低限でございます。」


「こ、これで最低限……。」


 パラパラと何枚あるのか確認してみれば、それは十枚以上あって、領主としての経営学や財務学、そして学校に行っていれば学んでおるであろう王国建国史から、主要貴族の暗記なんてものまである。


「た、たくさんありますね……。」


「申し訳ございません。」


 少ししり込みしながらそうつぶやくと、セバスチャンは一つ、頭を下げてくれた。


「本来であれば、伯爵令嬢としてお育ちになっていれば自然と身についていたであろうことも一から学んでいたく必要があるため、このような過密な時間割になってしまいました。 しかし、ポッシェ様には旦那様との結婚、そして社交界へのデビューまで3か月しかございません。 御不浄、入浴、休憩、睡眠。 それ以外の時間はすべて、それらに当てさせていただきたいと思います。」


 それには私は目を瞬かせた。


「それでこの時間割、ですか?」


「はい。」


 戸惑う私に、セバスチャンは例えば、と、丁寧に教えてくれる。


「お食事の時間は食事マナーの、お茶の時間は茶会の練習、廊下を歩いているとき、散歩の時間も社交の場では一挙手一投足、人に絶えずみられておりますので気を抜くことは出来ません。 このお屋敷でお過ごしの間、ご自身のお部屋以外では、そのように社交の場であるとお心がけ頂き、お過ごしいたきたいとおもいます。」


「えっと、もし、そぐわないようなことをしたら……どうなりますか?」


「私、レーラ、アンナほか、使用人たちがご指摘させていただく、という事ですね。」


 それには、後ろに控えているレーラとアンナもにっこりと笑った。


「……なるほど。 解りました。 ジョシュア様の足を引っ張らないためですものね、よろしくお願いします!」


「ご理解いただけてよろしゅうございました。」


 にこっと笑ってそう言ったセバスチャンに、私も頷いたところで、食堂の扉が開いた。


 ちらっと姿が見えれば、セバスチャン以下すべての使用人の皆他綺麗に頭を下げた。


「おはようございます、旦那様。」


「おはよう。」


「おはようございます、ジョシュア様。」


「おはよう、ポッシェ嬢。 昨日はよく眠れたかい? 体は大丈夫かな?」


 少し遅れて挨拶をした私に、ジョシュア様は微笑んでくれた。


「はい、昨日はご迷惑とご心配をおかけしました。 しっかり寝ましたから、もう大丈夫ですわ。」


 にこっと笑って答えると、ジョシュア様は頷いて、席につかれた。


「では、朝食を運ばせていただきます。」


 セバスチャンの一声で、お花の飾られた食卓には朝食が運び込まれてきて、穏やかに食事は始まった。


 基本的に、ジョシュア様と私の前には、同じ食事内容が並べられていた。


「本日の朝食は……」


 と、セバスチャンが私に説明してくれた朝食は、


 柔らかで丸い白いパンに、バターとクリームチーズ、果物の入ったヨーグルトという乳製品に、スクランブルエッグにベーコン、温野菜のサラダ、ポテトのポタージュスープだった。


 ただし、私の物はジョシュア様の物と少し違っていて、油の強いベーコンはなく、全体的な量も半分になっていた。


 そのおかげで胃に重いものを感じることなく、私はすんなりと朝食を食べられた。


 お食事が終わると、念のためと処方された食後のお薬をレーラが持ってきてくれた。


 これはもう、とっても苦かったけれど、顔をしかめてしまった私に、セバスチャンがミルクをたっぷりといれた甘い紅茶を用意してくれた。


 商会へ出向かれるという事で、ジョシュア様が先に食堂からお出になったのをお見送りしてから、セバスチャンが初めての朝食のチェック内容の確認をしてくれた。


 初めてという事でとってもドキドキしたけれど、もう少しカップやカトラリーを持つとき、置くときに、わずかな音を立てないように、指先の動きまで注意を払うように気を付けるよう言われたものの、おおむね合格点です、と笑ってくれた。


「食事中に指先まで気を付けるなんて大変な事ね。」


 私がひとつ、溜息をつくとレーラが笑ってくれる。


「それだけ、皆が見ているという事ですわ。 特に、社交界のデビューの時などは、以降の付き合い方を見定めるために、しっかりと観察されます。 日ごろから注意しておけば、後であわてななくて済むのですよ。」


「……そういう物なのね。」


 なるほど、と思いつつジョシュア様のお食事の様子を思い出す。


 ジョシュア様も時折、セバスチャンから「旦那様?」と声を掛けられていたことを思い出してセバスチャンに「あれも?」と聞いてみると、ジョシュア様もまだお勉強中らしい。


 それを聞いて、ちょっとほっとした。


「さぁ、ポッシェ様。 お出かけになる旦那様をお見送りして、図書館へまいりましょう。」


「もうそんな時間なのね。」


 慌てて立ち上がろうとして怒られた私は、無事、ジョシュア様を玄関でお見送りした後、私はアンナと共に、勉強部屋として用意された図書館へと向かうのだった。

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