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また過去で会おう

「今日、一緒に寝てくれませんか?」


 とんでもない言葉が松田妹から飛び出る。

 今日、普段の彼女から口にしない様な言葉が出てきたが一緒に寝るは不味く無い?


「えっ...本気で言ってるのか?」


 返答に困り変な間があく。

 どうする。どうする。兄妹だから良いのか?だが血は繋がって無いしなぁ。ていうか中身は、俺だぞ!?


「あったかいですよ?ほら」


 松田妹は布団をパタンと開き、ぽんぽんと隣を叩く。

 あぁ、吸い込まれそう。やばい、犯罪者になってしまう。


「い、いやだって明日学校あるだろ? 早く寝ないと」

「えー、けち」


 ぷくっと頬を膨らませた松田妹に罪悪感が刺さる。でも理性が勝った。兄妹の親睦は段階を踏むものだ。


「じゃあ、手握ってでやるから」

「ほんと!?やった!」


 彼女はぱあっと顔を輝かせ、俺の手を両手で包み込む。その温度がゆっくり伝わり、数分と経たず規則正しい寝息に変わった。


 ◇

 物音によって、うつらうつらと意識が水面に浮かび上がる。

 まぶたを細めると、隣の布団――いや、もうほとんどゼロ距離だ――に伏せた細い肩。松田妹の亜麻色の髪が枕にほどけ、微かなシャンプーの匂いが鼻先をかすめる。寝息はない。こちらを凝視している気配が、肌を撫でる風より確かだった。


 視線を上げると、案の定だった。

 丸い瞳が真上から射抜くようにこちらを見下ろしている。唇は悪戯を思いついた子どものそれ――いや、子どもにしては殺傷力が高すぎる。


「……ふよういに ねてやがってぇ」


 囁き声は掠れているのに、脳まで直撃する低温ボイス。

 昨夜、手を繋いだだけで寝たはずが、距離はさらに縮まっていた。シーツの熱がふたり分。


 松田妹は顎を乗せるようにこちらの枕へ滑り込み、ツンツンと指で俺の頬を突くと、半分欠けた月みたいな笑みを浮かべた。


「早く起きろ。……起きないと、ちゅーするぞ?」


 冗談とも本気ともつかない声音。昨夜の無防備な寝顔とは別人のような挑発だ。けれど瞳の奥には、ほんのわずかな怯えと期待が揺れている――兄妹か、それとも“ただの男と女”か。線を踏み越えるかどうか、試している目だ。


「……十秒カウント。いち、にぃ……」


 囁きながら指を折り始める。

 それは悪戯以上、でも本気未満のギリギリの駆け引き。

 残り八秒。空気が甘く粘つく。

 残り五秒。唇の柔らかな輪郭が視界を占める。

 残り三秒――。


 そこで俺は、たまらず身を起こした。


「は、はぁ! ちょっと、トイレ行きたくなった!」


 声が裏返る。松田妹は「ちぇっ」と舌打ちし、布団に潜り背を向けた。……完全に熱でおかしくなってる。


トイレから戻ると松田妹は何事もなかったように、ぐっすりと寝ていた。


 スマホを見ると数人から何件か通知が来ていた。


 特に三間から鬼電が来てた。取り敢えず「明日には合流出来そう」と返し布団に入る。


 一日時間が減ってしまったが俺には修学旅行中、二つのタスクを達成しなければならない。一つは、三間の援護。もう一つは、河北と松田翔太()の関係の進展だ。


 狙いは、同じ班のメンバーである如月さんだが勿論他があればいいが、フリーで俺の女友達でパッと浮かぶのが...河北、白坂、三間の3人。この中だと白坂になる。


 だが白坂のあの性格上、ちょっとでも優しくされたら俺は彼女の事を好きになってしまうだろうが、彼女たちがどう思うか。掴みどころないんだよなぁ。


 どーするか。知らん女子に話しかけても警戒されるだけだしなぁ。取り敢えずきっかけだけでも良いんだか。


 最悪、河北以外にし向けられる様にして行きたい。


 そんな事を考えにいたら急激な眠気が襲って来た。


 ◇


 ふと目が覚めると、時計は12時を回っていた。

 もうあの人は、修学旅行へ行ったのだろう。


 ふと、この1日を振り返る。最近あの人は、おかしい。少なくとも私をあんな目で見てなかったしいつもみたいに、変な行動をしてこなかった。むしろ...

 ヤバい。ていうか、何であんな事したんだ。頭おかしくなったのか。


 自分がやってしまった事がフラッシュバックし羞恥で死にそう。


「うわぁ!わたし何やってるんだぁ!」


 羞恥の感情と先程までの記憶を掻き消そうとバフバフと枕に頭を叩きつける。


 あの生理的に無理な匂いとその中にある微かな温もりの感覚が頭の中に残っている。

 相当疲れてる。


 落ち着くために、置いて言ってくれたペットボトルのみを飲む。


「ぷはっ!」


 からからの喉に染み渡る。

 体力も回復して来たので、少し勉強しようかと勉強机に向かうと椅子にあの人のものであろうカーディガンがかけられていた。


 そっとカーディガンを手に取ると昨日の事が再度フラッシュバックする。昨日の感覚は何だったんだろうか。世界一不味いと言われても一度は食べてみたい好奇心というか、嫌いだけどすきかもしれないという様な物を確認しにいきたい。そんな気持ち。


 すると自然にカーディガンに顔を埋めていた。


 なに?これ?柔軟剤変えたのかな?嫌いなのに嗅ぎたくなる匂い。


「私って匂いフェチだったのかな?」


 だとしてもあんな奴の匂いが好きなんてあり得ない。ヤバいヤバい。


 何かに堕ちていく感覚が...


「ひな起きた?体調大丈夫そう?」


 ドアのノックと共にドアが開かれる。


「ひゃ!?う...うん大丈夫だよおかーさん」


 びっくりした。咄嗟にカーディガンを後ろに隠す。


「何?勉強会しようとしてたの?今日はちゃんと休みなさいよ。お母さん今日は、家に居るから」


「わかった。ありがとう」


 ドアが閉まる。

 心臓がバクバクしてる。


 このカーディガンは早めにあの人に返そう。

 そう思いつつ、再度カーディガンに顔を埋めた。


 ◇


 ブーブー


 スマホのアラームか?

 松田妹のせいで全然寝付けなかったし、急いで、支度をして京都に向かおう。そうアラームを止めようとスマホの画面を見る。


 いつもならアラーム停止のボタンが現れるはずだった。しかし、そこには店長と記された着信画面が表示されていた。


 え?


 慌てて電話に出る。


「もしもし?」


「ちょっと東くん!?今日シフトなんだけど?忘れてる?」


 ちょっ、え?


「えっあっはい。すいません。すぐ行きます」


 東の感覚で、反射的に答えてしまった。


「ちょっと頼むよ。急いで来てくれ」


 そう言うとプツッという音とともに電話が切れる。おい、待てどういう事だ。


 辺りを見渡すと見慣れた東時生の部屋。この部屋を見て一瞬で理解する。


 ...どうやら俺は現代に戻って来た様だ。



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