お弁当
---昼休み
「松田君!一緒にご飯食べよ!」
よくぞ、俺の教室でそれをやってくれた。お陰で、クラス中の視線を独り占めだ。
「えっ三間さんがなんで?」
「えっ?松田彼氏なの?」
「うわ、狙ってたのにショック!」
教室内がざわつき始める。この感じ、三間は学年内でも有名人らしい。
しかし、こいつ加減というものを知らないのか。
朝日さんと机をくっつけて、お弁当を広げている白坂がニッコリとこちらを見ている。怖い。
「へぇー、松田君図書委員の子って三間さんだったんだね」
「へっ?、ははは」
笑って誤魔化し、そそくさと教室を出る。
背中にかかる圧がやばかった。
◇
---中庭
俺たちは取り敢えず、人気が少なそうな木陰を選んで座った。
「はい、お弁当」
お花とか入った可愛らしい弁当かと思いきや、曲げわっぱに入ったガチそうな弁当箱を渡された。
「おぉ、ありがとう」
弁当の蓋を開けると、お弁当定番のハンバーグや卵焼き、プチトマト等が彩りよく散りばめられていた。正直、手作り弁当なぞ何年振りに食べるのだろう。
そんな手作り弁当に感激していると
「...気に入らないなら、食べなくていいよ。私はもっと良い食材使おうとしたのに、男の子ならお母さんがこっちの方がいいって言うから...」
「いや、正直びっくりした。手作り弁当何で何年振りに食べるか」
早速頂く。やっぱり、女の子が丹精込めて作った弁当は五臓六腑に染み渡るぜ。
「美味しい?」
少し不安そうな顔で聞いてくる。
「美味い。正直舐めてました」
「そっか、良かった。お母さんに手伝って貰ったから、大丈夫だと思ってだけど不安になるもんだね」
喜びなのか、安堵なのか分からないがふっと柔らかく三間が笑った。
不覚にもドキッとしてしまった。10も下なのに。
「ていうか、お弁当作ってもらって悪いな。何か、奢るぞ」
正直、お金取れるレベル。
「いいよ、お代はこれで」
パシャっとスマホのシャッター音が鳴る。
「あ、おい」
「これで、手作り弁当初めて人にあげたからその記念」
「そうかい」
「この味、康太にも受けるかな?」
「ああ、大林が偏食でない限りで絶対美味い。賭けてもいいぜ」
「へぇ、何賭ける?」
「やっぱ忘れて」
正直、この賭けで負ける気はしないが...
「えー、どうしよっかなー」
とそんなたわい無い話をしているとチャイムが鳴る。
「やば、こんな話してるんじゃ無かった。松田君のクラスも今日修学旅行の回るとこ決めるんだよね?」
「確かそうだったな」
「縁結び神社、康太と一緒に回れるようにしたい。あっ、でも自然にだよ。偶然一緒に回るーみたいな?」
「そうかい、でどうすればいいんだ?大林と同じ班じゃ無いぞ」
「え?同じ班だと思ってた...」
「おい...」
歩きながら話していると三間の教室の前に着く。
「とにかく、私3時に縁結び神社に着くからお願いね!」
そう言い教室へ入って行った。
俺も教室に戻ると、白坂と東。両方から視線が向けられていた。
「お前、女いんのかよ。くそ、結局顔かぁ?」
自分から恨みのこもった呪言を放たれる。
中身は同じなので、真理はつかれている気がしで自分に貶された。
◇
5限が終わり、10分休みに入る。
ラインには「3時に縁結び神社だから!よろしく!」と書いてあった。
仕方なく、大林の席へ向かう。うぇ、大林と普段話さないのにどう話しゃいいんだ。
「なぁ、大林。お前の班どんな感じで回るが決めたか?参考程度に聞きたい」
「全然決まってないね。あ、龍安寺には行きたいかな」
「じゃあ、縁結び神社とか興味ないか?」
「え?全然?」
「そのさ、三間と...」
「もうすぐ授業始まるけど、何?惚気話でもしに来たの?」
河北が会話に乱入してきた。
「え?いやそんなんじゃ」
「じゃ、なんでわざわざ縁結び神社なんて話してんの?2人で行く様な所の話なのにさ。幼馴染の康太への当てつけ?」
「いや、俺は三間さんとは付き...いやそんなんじゃ無いって」
くそ、大林をさり気なく縁結び神社に誘導しようと思ったのに...
「じゃ?何?普段は、康太と話さない癖に」
ぐうの音も出ない。
するとチャイムが鳴り、先生が教室に入ってくる。
「授業始めるぞー。早く座れー」
チャイムに助けられた...。
そのまま、無言で席に戻る。
「よし、じゃあ各班に分かれて各自話し合って決めてくれー」
七海先生の号令共に、各班に分かれる。
取り敢えず、東と同じ班なのでしれっと東についていく。
七瀬先生は、後ろの空いた椅子にどかっと座り「何で私がこんな恋愛イベントの手助けしないといけないんだ」とぶつぶつ言っている。風の噂では、合コンで大敗したらしい。そういう事は、もっと聞こえない様に呟いて欲しい物だが。
早速、東に続いて椅子に座る。
班構成は男女3人づつの6人グループだ。
早速ルート決めと行きたいところだったが女子の如月優奈が筆頭としてちゃんと決めていてくれた様で10分位で決まってしまった。
本当は、三間の為に縁結び神社をルートに仕込んで置きたかったが、河北に言われた事が楔となり無理だった。
「すまん、縁結び神社にすんの無理そう」とラインで送る。
「そっか、私もルート的に寄れないって言われてダメだった」と返ってきた。
駄目なのかよ!っと思ってしまったが、失敗してしまったので安堵はした。