放課後、ドレス教室
文化祭前日の17時半をすぎた頃。東は、会場設営後の写真を撮る係に任命され、教室に誰もいない時間を狙って訪れた。
東は、少し気怠さを感じながらも、教室のドアを開けた。
「おっ、優秀」
誰かしら、前日の熱気に当てられて居残っている人がいると思っていたが誰1人残って居ない…
と思った時、カーテンの陰からひょっこり顔を出す銀髪おさげ――白坂葵。
突然の物音に、東はびくりと身体を震わす。
「お疲れ、東。どしたの」
「びっくりした、白坂か。会場の写真撮影撮影だよ」
「へぇ〜?盗撮じゃないよね?」
白坂は口元の部分までカーテンで隠す
「本当にそうだったら、問題になっちゃうよ」
その言葉が真であるならば、教育委員会も黙って居ないだろう。
「つまんなーーい」
白坂はバッとカーテンから飛び出し、東の目の前に立つ。
「それにしても、凄いよね。このクオリティ」
白坂は、装飾のついた机を触りながら呟く。
「そうだな、みんな頑張ってたし、劇までもあるんだから、エネルギッシュだ」
実際、他クラスはダンボールである所、実家材木店である林君の力もあってハイクオリティ。
「劇…そうだね。結羽綺麗だったよね。あんなの見たら絶対大盛り上がりだよ」
実際白坂の言う通り、盛り上がることは間違い無いだろう。ドレスを着た時、クラス中の男子のみならず女子もガン見していた程だ。
「そうだろな、でも白坂の裁縫技術あってのものだろ」
「お役に立てれてればいいねぇ…」
と、白坂は言うが煮え切らない顔をしていた。
自分の裁縫技術に自信を持てて居ないのだろう。
「お役に立ててるって、少なくとも、大林はそのドレスを白坂が着たら似合うって言ってたぞ」
「へぇ…じゃあ、東くんは似合うと思う?」
白坂は、疑うように身を乗り出してくる。
「それはいいだろ、白坂は素材いいし、モテててるだろ」
「え、口説いてる?」
白坂は目を丸めてこちらを覗く。
「いや、一般論をな」
「奈緒がいるのにそんな事言っちゃっていいの?」
「なんで三間…てか口説いてないし」
東はプイッとそっぽを向く。
それを見て思いついたのか、白坂はふっと笑みを浮かべる。
「ちょっと目つむってて」
「は? なんで――」
「いいから」
結局、東は言われるがまま直立し、目を瞑る。しばらくすると布の擦れる音がする。
数分後、ホウキで背中をツンツンされ、いいよ」の合図とともに俺はおそるおそる目を開いた。
目の前にはドレス姿の白坂が立っていた。
◇
ひらりと衣装を翻し。俺の前に立って見せる。
「王子様、これからどちらへ?」
白坂は、袖をつまんで優雅にお辞儀をし、ニコッと笑って見せる。
「ちょっと劇の練習付き合ってよ。王子様役、今いないんだもん」
「いや、俺セリフ知らないし」
「大丈夫。台本なんて飾りです!」
白坂は自信に満ちた顔で、胸を大きく張る。
「じゃ、たとえば――」
白坂は教壇をステージに見立て、ドレスの裾をつまむと、俺の方へ一歩ずつ優雅に歩み寄る。
「偽りの平和に酔う王国よ、聞け。真の勝利は誰の手に――ってくだり、どう?」
「中二入ってないか? 姫じゃなくてラスボスだろそれ」
「ふふ、ギャップ萌えってやつだよ? ――さ、王子様の返し」
「え、俺のせりふ? えーと……“我が剣は真実にのみ下される”?」
「あはは、全然ダメじゃん!」
白坂は笑いながら、パチパチと拍手。
そして、
「最後に私が勝ってればいい」
そう小声で東に聞こえるか聞こえないかの音量で言った
そんなセリフあったっけ。
東が眉を寄せると、白坂は口元だけでくすりと笑う。
「姫って、結局ハッピーエンドを掻っさらう役だから」
童話の結末は知っている――でも、この“姫”が何を狙っているのかは、まだ分からない。




