作戦会議
--放課後
三間に連れられ、駅前通りを抜けた先のこぢんまりとしたカフェに入った。放課後の時間帯は高校生の姿もまばらで、ガラス越しに差しこむ西日がテーブルを淡く照らしている。アンティーク調の丸テーブルに向かい合って腰を下ろすと、ほの甘いミルクの香りと深煎りコーヒーの苦みが鼻をくすぐった。
目の前――両手で陶器のマグを包み込むように持つ三間は、湯気に頬を染めながらカフェオレを一口。俺は片手でブレンドを持ち上げ、まだ熱いそれを慎重に啜る。
「え、ブラックで格好付けるタイプ?」
三間がスティックシュガーを三本、いや四本──ついには五本目までちぎってカップに投下し、カチャカチャと音を立てて煽ってきた。
「甘いの苦手なんだよ……ていうか、お前、それ入れ過ぎだろ。糖尿になるぞ」
「普通だし。フラペチーノとかこれくらい入ってるし」
「そうかよ」
「そうですー」
そう言うと、彼女はべーっと舌を出し、不満を露わにする。
早速、好みが合わない。
「で、本題だが──何すればいいんだ?」
「まずは康太くんから河北さんについて探りを入れるでしょ? それから好きなタイプとか……私のことをどう思ってるかとか……」
言いながら三間は自分の言葉に照れて、視線をカップに落とした。耳までほんのり赤い。
「取りあえず、お前が大林を好きってバレないように、恋愛事情を聞き出せばいいんだな?」
「そ、そう」
「俺的には、お前から直接聞かれたほうが気にすると思うけどなあ」
「そ、それは……恥ずかしい……」
「恥ずいって、結局告白するんだろ」
「そうだけど……心の準備っていうか、あっちが私を意識してるか確かめてからにしたいの。だからさ、男子がこういうことされたら“あ、この子のこと好きかも”って意識しちゃう行動、無い?」
無意識なのか、上目遣いで俺を覗きこむ。……反則だろ、それ。
「パッと思い付くのは、よく話しかけてくれるとかボディタッチされるとか。そういうのされると意識はするかも」
「……そう」
三間は「はぁ、参考にならん」という視線で俺をチラリ。
「そうだろ。女の子と縁が薄い奴は、ちょっとでも触れられるとすぐ勘違い──いや意識するからさ。なら肌の露出増やすとか、その得意の上目遣いで落とせばいいだろ?」
「いや、松田くんを“女性免疫ゼロ”とか思ってなかったけど!? てか最近、大林くんとは会話すらしてないし、それ却下!」
「ゼロまでとはいってないが!?」
声が徐々に大きくなり、言い合いはヒートアップ──
「あのー……」
店員が控えめに近づき、苦笑いで手を合わせる。気付けば店内の視線は全方向からこちらへ集中していた。
「す、すいません……」
ふたり同時に頭を下げ、急いで静かに腰を下ろす。アイスが溶けるように気まずさが広がり、テーブルを挟んで沈黙。
「……とりあえず、お開きにしよっか」
「そうだな」
俺はポケットからスマホを取り出す。ガラス面に夕陽が反射してチカチカ光った。
「よーし、これでいつでも連絡できるね!」
三間は俺のスマホをひったくる勢いでLINEのQRコードを読み込む。数秒後、“nao”というアカウントが画面に追加された。アイコンは丸い白猫が頬杖をつくイラスト。
――簡単に女の子の連絡先をゲット。俺の友だちリストに女子はゼロだったのに。何だ、この理不尽。
三間は満足げにスマホを返してきたあと、ストローで残り少ないカフェオレをかき混ぜ、ふいに俺の目を覗きこんだ。
「あっ、最後に──私のこと、好きになっちゃダメだよ?」
悪戯っぽい笑みとともに繰り出された不意打ち。JK恐ろしい。