文化祭準備
「そこ、もうちょい右! 右!」
「違う違う、貼る順番! 先に折ってから!」
「誰だよガムテ切れっぱなしにしたやつ!」
文化祭の準備も中盤に差し掛かり、教室は忙しなくなっている。机が寄せられ、壁には飾り付けの下書き。段ボールとガムテープの匂い。
東達の2年2組の出し物である「童話カフェ」は、内装だけでなく、童話のコスプレをする事もあり、皆コスプレ衣装を作成している。
東も小道具担当として、塗装の乾かないパネルを避けつつ、段ボールの切れ端を抱えて移動していた。ふと視線を上げたとき、教室の騒音が一瞬だけ薄くなる。
顔を上げる、目の前にいた男子の目線の先を見る。
その先にはそこには河北がいた。白坂に着付けられているそのドレスは、生地の艶、胸元のレース、腰のラインの作り方そして、そのドレスを着こなす河北のプロポーションは、文化祭の域を超えていた。
そんな河北に呆気を取られていると、声を掛けられる
「ちょい、ちょい」
声の方を向くとドアの端からひょっこりと顔を出し、手招きする三間がいた。
「すごいね河北さん。めちゃくちゃ似合ってる。本当にお姫様みたい。」
「このクラス、カフェだけじゃなく劇もやるらしいからな。気合い入ってるんだ。」
「まじ!?絶対観に行く!」
「ちなみに聞いてあげるけど、東くんの役は?」
「ないよ。出ない」
「うわっ、つまんない…ってそうじゃなかった。この子がさ、東くんに用があるんだって」
そう言って三間は少し身を引き、後ろを示す。
そこに立っていたのは、小柄な少女だった。
東は、目を見開いた。
松田妹だった。
「…松田の妹がどうして」
松田妹は、胸の前で手を握りしめ、じっと視線をかこちらに移し離さない。
「兄さんが起きなくて、何か知らないかなって…」
「起きない?」
◇
放課後
校門には、松田妹と三間が居た。
松田妹は礼儀正しく頭を下げる。
「兄さんは、大山病院という所に居ますので、案内します。」
松田妹と三間が楽しそうに喋り。東は、少し後ろを歩く。
東は二人の少し後ろを歩きながら、胸の奥がざわついていくのを感じていた。今まで過去の松田へ憑依していたのに突然過去の自分へと憑依。依然と状況が明らかに変化している。
すると、松田妹が少し歩くペースを落とし、こちらに並走し、東に話しかけた。
「東先輩と兄さんってどういう関係だったんですか?」
「特段、仲良いとかでは無いな。だから、クラスメイトだ。しかし、俺と松田が仲良いなんて誰から聞いたんだ?」
「白坂先輩です。」
「白坂が…何で」
「本当に、何ででしょう?」
松田妹は何かを勘ぐる様に、じっとこちらを見つめてくる。
「あ。ひなちゃん。ここ?」
角の病室だった。
4人部屋のネームプレートには、松田 翔太と書いてある。
病室に入ると、ベットに松田が横たわっていた。
身体は動く様子は全くなく、寝息も聞こえない。
「こうなる前日まで、元気だったのに…全然起きてこなくて...お家にお父さんもお母さんが居ないから、私がいっぱい負担かけちゃったからかな…」
松田妹のあの頃の暖かい笑顔の面影は、消えじっと松田の顔を見ていた。
「そんな!体調悪そうなそぶり、全然見せなかったよ!」
ポタポタと松田妹の涙は、自分の手に零れ落ちる。
やってはいけない事だった。止めるべきであった。
そして、東は静かに拳を握った。




