カフェに行こう
目が覚めた時、視界には見慣れた天井。……2024年だ。どうやら如月のお祓い、案外効いたのかもしれない。
しかも今日は朝番だったのに、ギリギリ間に合った。前回の遅刻を思い出しながら、冷や汗を拭う。今回は東堂くんと同じシフトだった。
「おつかれ様です」
「おう、おつかれ」
業務を終えて、更衣室を出たところでスマホが震えた。通知を開けば、如月からの鬼のようなラインが十数件。「今日、カフェ行くの忘れてないだろうな!?」という内容
遅刻しそうで返信できなかった。申し訳ないとは思っていたが、ここまで怒っているとは……。
コンビニの前まで来ると、ちょこんと座る小柄な影があった。如月紗奈。あの如月優奈の、妹――まさか俺のクラスメイトのあの如月と、こんな形で繋がっていたとは、思いもしなかった。
「あれ紗奈どうした?」
隣を歩いていた東堂くんが声を掛ける。
「あ、東堂先輩!お疲れ様です!」
ぴょんぴょんと小動物の様に挨拶する。
東堂くんも笑って会釈し、それに倣って俺も挨拶しようと、ずいっと如月が詰め寄ってくる。
「...ひがし!ライン出ろよ!そのせいでここで待ってたんだからな!」
「ごめんって。ラインでも言ったが遅刻しそうだったんだ。」
「東さん?今日何かあるんですか?」
東堂くんが不思議そうに尋ねてくる。
「あぁ、何かスイーツを食べなきゃいけないらしい」
「ちょっと、欲しいグッズがあって...それがカップル限定で...」
「え!?東さんと紗奈、付き合ってるの?」
東堂くんが目を丸くする。
「違います!」
食い気味で、如月が否定する。そんな、焦って否定する?
「いや、俺がこの前遅刻した迷惑かけたから手伝えってさ。」
「なるほど」
東堂はすんなり納得した様子だ。そういう柔軟なところ、ちょっと羨ましい。
「で、どこ行くんだ?」
如月がコラボカフェのサイトを見せる。メニューを見るとパンケーキやドーナツなどコラボしているのは軒並み甘そうなスイーツだった。
「うげ、俺は甘いの苦手なんだよなぁ」
「え?ひがし甘いの嫌いなの?好きそうな顔してるのに」
「あ、じゃあ俺が代わりに行きましょうか。俺甘いの好きなんで」
なんと、東堂君が俺の代わりに立候補してくれた。
「まじ?お願いしても良いか?」
「ちょ!?それじゃあひがしに奢って貰えないじゃん!!」
如月がわたわたと動揺する。……って、奢らせる気だったのかよ。
「俺が出すんで、大丈夫です」
東堂くんが爽やかに答える。俺なら、奢るなんて言わない。
「そんな!?東堂先輩に迷惑かけられないです!」
「うーん。じゃあ俺が東さんに後日飯奢って貰うって事でいいっすか?」
「え、ま、まぁ?」
食べ盛りの男子高校生。どの位奢らされるのだろう。
「よし、じゃあ紗奈行こう」
「え、あ...」
あれよあれよという間に、二人は連れ立って行ってしまった。
◇
その夜。
ラインは未読が30件、すべて如月。めんどくさいので無視していたらとうとう電話がかかって来た。
「同じ学校の子にも見られたし、緊張し過ぎて味しなかった。ふざんけな!」
青い春を見事満喫した様だ。微笑ましいと同時に自分の青春を振り返り悲しくなる。
「まぁ、良いじゃんか。折角東堂くんが一緒に行ってくれたんだ」
「そうだけど。いきなり二人になっても喋れないし、コンプ所か推しもゲット出来なかったし!」
コンプって結構なかったか?今日どんだけ食べつもりだったの?
「折角奢って貰えたのに。勿体ない」
「そんなの、申し訳なくて無理だし。そんな、いっぱい食べる女の子なんて思われたくない!」
俺には、申し訳無くないんですかね。年離れてるからいいか理論かな?
「別にいっぱい食べる女の子可愛いだろ。」
「はぁ?太るだろ!ひがしの好みなんか聞いてない!」
「そうですか...」
どうやら、俺の意見は微塵も参考にならないらしい。
「っていうか、今日私を待たせたんだから、その埋め合わせ、絶対してもらうから!」
その言葉に、電話越しの圧が増した気がした。
財布の中の偉人達、大丈夫かな?




