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プロローグ
世の中には――やっぱり、天才がいる。
才能が環境にハマれば一躍スター、外れれば瞬時に淘汰。単純だが、それが生物の摂理らしい。
たとえば 同じクラスだった大林康太。生まれながらの太陽で、ひと笑いするだけで教室の照度が三段跳ねる男だ。
そして俺? “陽キャ集団のトモダチ枠”―― 松田翔太……ではない。
本当の名は 東時生。
けれど今、この肉体と生徒手帳には凪高校2年3組〈松田翔太〉と刷られている。
俺は“東時生”という本体を必死に隠し、借り物の殻で呼吸している 空蝉みたいな奴 だ。
おかしいだろ?
本来なら陽光きらめく輪の外で干からびるはずの俺が、気づけば――
スター大林の隣で肩を叩き、笑い声の渦に紛れ、「松田翔太=俺」という前提で拍手をもらっている。
そう。東時生は今日も〈松田翔太〉として高校二年の席に座り、
別人の青春を――成り代わって生きているのだ。