雨が好きな女の子。
「雨って好きな人いるの?」
彼女が僕に聞いてきた。
確かによく考えてみたら雨を好きな人はあまりいないかもしれない。
梅雨の季節なんかはオカンが洗濯物が乾かないと嘆いているし、姉は湿気で前髪が決まらないといつも学校を遅刻しそうになっている。
雨というのは多くの人が憂鬱なものだと思っている。
でも僕は、雨を好きな人は時々いるのではないかと思う。
雨が無ければ木々は育たないし、雨の音が好きという人も聞いた事がある。
彼女の
「雨って好きな人いるの?」
と言う言葉。
いつもの僕なら、
「嫌いな人のが多そうだけど、僕は好きな人もいるんじゃないかな」
とかなんとか、答えるだろう。
でも、僕はすぐに言葉が出なかった。
なぜなら、彼女が聞いてきたその日は、雨も降っていない、青く晴れた夏の日の放課後で、
僕は彼女と日誌を書いていて、
彼女が顔を真っ赤にしながら僕に問いかけていたから。
そして、僕の名前が「雨」という名前だったから。
雨を好きな人はあんまりいないかもしれない。
けど、僕は雨がそれほど嫌いじゃない。勿論天気の方の。
それは、僕の名前の由来になったものだから。
僕と同じように、雨を好きな人はきっと、多分いる。
顔を赤くして目線を机上にある日誌に向ける彼女をみながら、
「雨、好きな人いるよ。」
僕は小さい声で答えた。
彼女の目線は日誌からゆっくり上がって、僕と見つめ合った。