第六章
「さて、大船に乗った気になって気安く」
ペドロは太陽の神の仮装をし日輪の仮面をはめた。
「これで私はクローディスを名乗りヒローインを口説いておこう、そして仮装を解いてヒローインに求婚するがいい、さすればヒローインもうなずこう」
クローディスは目立たない仮想をして覆面をつけていた。
「むろん貴方様を信じておりますが」
クローディスは覆面の下からでも困惑の表情を浮かべていた。
仮面舞踏会。つまり複数の男女が仮面をつけて共に踊る。
「あらかじめヒローインの身に着ける衣装の情報は手に入れていた。それにあの姉妹のような従姉妹は常にお揃いの格好をしており、色味が淡い方がヒローインといつもきまっているとこの城に勤める女中から聞き取っていた。
そして、舞踏会に向かう。使用人が太鼓をたたいて入場を知らせた。そして誰が誰だかわからないように会えてばらばらに会場に入った。
そして薄い緑のドレスを着た少女と緋色のドレスを着た少女が二人並んでいるのを見た。レースのベールをすっぽりとかぶり顔が確認できないようにしている。
レースからこぼれる髪色を確認すれば緑のドレスがヒローインだろう。
楽団が円舞曲を演奏し始める。
レイナートとアントニオの兄弟はそれぞれ仮面をつけてそれを見守っていた。
「お嬢さんお相手をお願いしてもよろしいか」
ヒローインは差し出された手を取った。
そして、ヒローインは最初のステップを踏んだ。
「どうぞこの時はお相手させていただきます」
クルリクルリと二人は回る。
「この手を離したくないものだ」
「この手は様々なことに使うものずっと話さないでは困りますわ」
「貴女の方こそ私の手を取ってくださらない?」
「それはそれ、私の気が向いたならそうしましょう」
ヒローインはベールの向こうでどのような表情を浮かべているのか。思わずペドロはその顔を覗き込みそうになった。
「私の答えが聞きたく場その仮面をとった後にしてくださいませ。まさかそんなに広がった顔をしているわけではないでしょうね」
ヒローインは大きな仮面に笑った。
その時ポラチョはヒローインとビアトリスの小間使いを口説いていた。
マーゴットと呼ばれるその小間使いはヒローインとビアトリスよりやや年かさだが器量よしの部類に入る。
「貴女のようなきれいな方に会えるなんてもはやわが幸運は天の恵みを感謝するほど」
「いやですわ、私はあなた思っているよりちょっと欠点が多いのですわ」
二人は踊りながら楽しげにやり取りを繰り返した。
「きっと可愛らしいと思いますが」
「あら、祈りの時声が大きすぎると言われますわ」
「神様はきっと貴女に恵みをもたらしますよ、その美しい祈りにこたえないはずない」
くすくす笑いとともに二人は回る。クルクルと。
アントニオは小間使いの一人アリシラと踊り始めた。
「あらあらどなたかしら」
踊りの縁戚ということで普段はおとなしやかなアリシラも今日は陽気だ。
「どうなさいましたの、こんなところで」
「おや、私が誰かお分かりか」
アリシラは目を伏せる。
「手を見れば一目瞭然。こんな皺の浮いた手は城主様の弟君しかいらっしゃらない」
「おや、本当にこんな手をしたものがこの城にもう一人もいないのか?」
「ですがそんなふうに首を傾ける癖を持った方は一人だけです」
クルクルと人は回る。