第三章
「お前たち随分と遅れているな」
いつまでたっても二人がやってこないのでペドロは引き返してきた。そして二人の若者が深刻な表情で黙りこくっているのを見た。
ベネディクトはいかにもひきつった顔をし、クローディスは何やら煩悶しているようだ。
「お前たち、いったい何を話していた。悪だくみでないなら話すがいい」
「是非に聞きたいですか」
ベネディクトは奥歯にものが挟まったように言いよどんだ。
「黙っていろと言わないなら行ってしまうぞクローディス。雁にも主と呼んだお方だ命じられれば話さずにはおかれぬ」
そして一つ咳払い。
「この男、恋煩いでございます」
そう言ってクローディスの方に親指をさして見せた。
「恋の相手はレイナートの娘ヒローイン、あの小さな小娘で」
「確かに、その通り、この場にではこの話しかしておりません」
「そのようなことあってほしくはなかったのですが」
憮然とした二人にペドロは笑った。
「なるほどそれならば、まことにその思いが確かなものなら」
「この思いに生涯覚めてしまいたくないと思っております」
クローディアスはその目にはっきりとした決意を浮かべて言い切った。
「よく言った。それならばこちらも骨を折ろう。まこと非の打ちどころのない娘だ」
「何をお考えで?」
クローディスはペドロから思わず身を引いた。
「あの娘は非の打ちどころのない娘だ」
「無論のこと信念をもって断言できます」
クローディアスはそう答える。
「私は信念をもってそんなことは無いと断言できます」
ベネディクトはそう断言する。
「お前がいつか恋のクピドの夜の餌食となった時が見ものだ」
「そんな日は永遠に着ませんよ」
「そうです、この男のことはあとでいい、今は私のことなのです」
クローディスの弱り切った顔にペドロはにんまりと笑う。
色々と言いつのろうとするベネディクト、それをあっさりと無視してペドロはクローディスに耳打ちする。
「これから盛大な宴を開くとレイナートが申して居った、その時がチャンスだ」
そう言ってさらに畳みかけるように言った。
「明日の宴は仮装舞踏会だ。その時私をお前を入れ替えよう、私がはっきりとあの娘に我がものとなれと言おう、そして仮想を入れ替えてしまえばいい、そうしてお前はあの娘をわがものとすればいいのだ」
「あの」
「そうともあの娘は必ずやお前のものとなる、楽しみにしておけ」
そう言ってペドロは楽しそうに笑った。
その時三人は気づかなかった。物陰でその話を立ち聞きしていたものはそっとその場を後にした。