第三十章
ペドロが人ごみに近づくと人込みは波が割れるように割れ、その向こうにある晒し台が見えた。
首に枷をつけられた二人を見てペドロは驚いた。
「どうしたのだ、わが弟の従者がこのようなことになっている」
その有様を詰めたく見下ろしていたレイナートは不気味な笑いを浮かべた。
「お前たち、さっさと自分の罪を白状するがいい、さもなければお前たちを鞭打つぞ」
レイナートの傍らには屈強な男たちが立っていた。
その手に凶悪な武器が握られている。わずかな合図さえあれば迷わずそれをふるうだろう。男たちの目はどこか剣呑な光を帯びていた。
「お前たち、いったい何をしている。それにわが弟ヨハンはいったいどこに行ったのだ」
「ああ、わが主はさっさと逃げ足や薄逃亡してしまったのですね」
ポラチョはさして驚く様子もなく答えた。
「私たちがこうしているのはあの方の命令に従ったから」
「そう、多額の報酬を約束してくださった」
コンラートも自棄になったように笑う。
「そして、十分の一だけ支払って逃げてしまった」
ポラチョは物悲しくそう言った。
「だから一体何なんだ、あれの従者であればあれの命令に従うのは当たり前、ならばどうして罪に問われる」
ペドロはそう言って二人を問い詰める。
「あの方はおっしゃいました」
「どうにかして兄に恥をかかせてやることはできないかと」
「そして、貴方様の腹心であるクローディス様の面目を無くしてほしいと」
二人は口々にそう言った。
「そして思いついたのがクローディス殿の婚礼をぶち壊しにすることでした」
「そのため私どもに骨折るように命じました」
「私はヒローイン様の腰元をそそのかし、ヒローイン様のご衣裳を持ち出させました」
「あれほど愛しているとおっしゃいましたのに、クローディス様はヒローイン様のご衣裳を羽織った腰元とヒローイン様の区別もつかなかった」
「そしてまんまとヒローイン様の不貞の現場と思い込んだ。私と濡れ場を演じていたのは腰元に過ぎなかったのですが」
そして二人は顔をくしゃくしゃにした。
「まったく酒は恐ろしい」
「この地の美酒の魔力だ」
「私どもは酒に酔ってこの顛末を大声でしゃべってしまいました」
「そしてまんまとレイナート様の配下である衛兵にすべて聞かれてしまいました」
『そんな私たちを置き去りにして、ありがたいことにご主人様はとっとと逃げてしまいました。払うという報酬も十分の一だけしか払わずに』
そう二人声を合わせて言った。
ペドロとクローディスは棒を飲んだように立ち尽くしていた。
「さて、どうしてくれるのですかなこの顛末」
レイナートは不気味に笑う。
「あの子はかかされた恥に耐えかねて倒れてしまいました。そしてすでに息もなく」
クローディスの額に大量の脂汗が浮かぶ。
「ヒローイン…」
立ち尽くすクローディスに誰もかける言葉はなかった。




