第二章
「レイナート殿の寛大さには私は感嘆を禁じえませんな、このような盛大に迎え入れていただけるとは」
「何の何の、アルゴンのペドロ殿をお迎えできる光栄競ってでも承り等ございます」
二人の領主はいたって和やかに再開を祝いあっていた。
「いやいやまことにありがたいこと、そしてその場には可憐な花まで供えてくださって、そちらは娘ごで」
「我妻が申す限りではそのようです」
「おや、信じておられないのですか」
ベネディクトが思わず口をはさんだ。
「さて、それを申すのはあれが生まれたときは幼子だったから」
「まあ、お前の行状は薄々知っているがなベネディクト、さて、つまらぬ冗談だ、随分と父親似の娘ごではないか」
「そうですかね、レイナート殿そっくりの娘など、将来を悲観するしかないのでは? 領地すべてをもらっても当然折り合わない」
「つまらない差し出口、貴方の言葉など誰も聞いていないのにね、いつまで自分が中心でいるつもりなのかしら」
ビアトリスは白けた顔をしていた。
「ああ、高慢な姫君、まだご健在で」
ベネディクトは小柄な令嬢を見下ろした。実際長身の彼からすれば見下ろすほどの背丈しかないのだが。
「貴方のようなくだらない男がいればいくらでも高慢になれるわ見下す対象には事欠かないものどんな貞淑で慎まし気な人だってあなたを見れば途端に見下すわ」
「貞淑て慎ましやか、どこだ」
ベネディクトは目元に手をかざしてあちらこちらを見やった。
「まあ、女と言いうものは私を見れば惚れてしまうが、貴女に惚れられないのは天の恩寵。もっとも女というくだらない生き物にかかわるのはまっぴらだが」
「それは女という存在には天の恩寵、うれしくて仕方がないわ」
「それは全く同感ですな顔に生傷つかずにすむ」
はっと吐き捨てるようにビアトリスは言った。
「その顔に多少に傷がついたとて価値を減ずるわけがないわ、もともと価値などないのですもの」
「鸚鵡と話している方がまだましだが、まあそれもいい」
「馬より価値のない人が、まああなたが馬ならさぞや駄馬」
「そのレイナート、もういいか」
聞いているだけで疲れるとペドロは頭痛をこらえるように聞いた。
「クローディス、ベネディクト、レイナートが我らを歓待してくれる、ひと月ゆっくりと逗留させてくださるようだ、まことに寛大な申し出だ」
「むろんでございます、なんでこの口に二言ありましょうか」
「まことに素晴らしきお申し出感謝いたします」
ペドロの弟ヨハンはそう言って一礼する。
「では城内に」
そう言って一同を門の内側に迎え入れる。
主の後ろ姿を見送りながらクローディスはベネディクトに話しかけた。
「レイナートの娘を見たか?」
「見たような気がするが」
「お前どう思っているのだ」
「俺の判断などどうでもいいだろう、女などくだらない」
「真剣に聞いているのだ」
書き口説く友をべねでぃっくは白けた目で見ていた。この男は体格も立派で顔だちもそれに習う。それを小さく縮こまらせて悶えている。
「まず小さすぎる。それに肌の色つやもよくない、もう少し白かったらいいのだが、顔だちもさして気に入らない」
「冗談を言っているのではない」
「いや、まさかあの女が欲しいのか、もっと上等の女がいるだろう、美醜で言うならあの凶暴な従姉妹の方がまだましなくらいだぞ」
「あれほど美しい女などいない」
ベネディクトは軽く頭を振った。
「まさかあの女の亭主に収まるつもりか? 冗談ならもっと気の利いたことを言え」
「冗談ならもっと別のことを言うとも、だがあの人のことはけっして」
「本気、なのか?」
ベネディクトは真顔になる、この男が女のことでここまで弱るとは思わなかった。