第一章
「あのお騒がせ男、口だけはでかい役立たずが一体どんな武功を立てたというのかしら。クピドの夜が俺の胸を射抜けるものなら射抜いて見ろと、大口をたたいていたけれど結局オジサマの道化と喧嘩をしただけじゃない。さぞや華々しい武勲を立てたのでしょうね、いったい誰を打ち取ったというの」
レイナートは慌ててベアとリアの口を閉じさせようとした。この娘はいかにも清楚で愛らしい顔立ちをしているのにその内面は奔馬もかくや。
「まあ落ち着け、まあ、お前とベネディクトの二人ならどうでもいいが」
どのみち面倒になったので放っておくことにした。
「あの方は立派にお務めを果たされたとか」
「は、どうせ兵糧が重くて仕方のない下級兵のためにたっぷり無駄飯を召しあがったのでしょうよ、このあたり一帯一の無駄飯食いなんだから」
「いえいえ、大した者で、たいそうな騎士ぶりでございましたが」
従者は顔色を青くし冷や汗をしとどに滴らせていた。
「どうせ見てくれだけでしょう、ほかの岸様と並んでどれほど秀でていることか」
「いえ、ほかの方たちに見劣りなど決して」
「見てくれだけはね、中身のお粗末さをごまかす見てくれをいただけただけで神の恩寵、詰め物のお粗末さとしたら」
はっとビアトリスは憎々しげに笑い飛ばす。
顔をひきつらせたレイナートはに笑みだけを唇に張り付かせて。
「この子は冗談のきつい子なので、いやいつもベネディクトとはこのような冗談の応酬がいつものことで」
ハハハと乾いた笑いを漏らす。
「あら、神の恩寵は見てくれだけ、それ以外は取るに足らないくだらない人がどうかした、友情すら長続きしないあの人な随分と親しくしている人がいるようね。そのお気の毒で見る目のない方はどこのどなた?」
「何もそこまで言わなくても」
「あら、あの男を友と呼ぼうなど、人を見る目がないなど生ぬるいわ」
「耳が早いと言ってもそこまでではないようで」
従者はただそう言った。
「どうせくだらない男の名など記憶する価値などないわ、どうせ頭の熱い浮かれもの駆ける価値などないにもかかわらず地獄の底までとかのたまっているつまらない男でしょう」
「確か御名はクローディアスと申されたとか」
「そう、名を知ってしまえば憐みの心もわいてくるわ、どうかその方がまともな見方を身に着けて価値なき者を切り捨てる勇気を持てることを。どうかおのれの過ちを直視する勇気を持たんことを」
「その辺にしてください、お嬢様」
疲れ切った顔で従者は呟く。
「ま、大丈夫だと、普通にな」
レイナートはやれやれと頭を抱えた。
「大丈夫ってどうして、私はいたって普通でしょう」
ビアトリスはいかにも侵害という顔でレイナートを見た。
開門を告げる声が聞こえた。
そして威風堂々とした領主ペドロが入場してきた。その背後にいかにも絢爛たる装いの騎士たちが連れ立って入ってきた。
「レイナート殿、盛大なるお出迎えまことにありがたく思います」
重々しく領主ペドロは一礼した。
ちょっと悪口をソフトにしています。原作ではもっとひどいことを言っています。




