第十七章
「婚礼が終わるまではこの城にご厄介になるが終わり次第にアルゴンに戻るつもりだ」
ペドロはそうリンゴをかじりながら呟いた。
「では私もご一緒に」
クローディスがそう追従したが笑っていなした。
「婚礼のすぐ後に花嫁と別れ別れにすることはできんよ」
そして部屋の片隅に立つ相手に向かって言う。
「ベネディクトはアルゴンに戻るだろう、お前までいなくなられるのは少々寂しい」
ベネディクトは何やら考え込んでいるような顔で明後日を見ていた。
「どうした色男、幾多の誘惑をかいくぐり美女を泣かせてきたつれない男がまるで恋煩いでもしているようではないか」
「さてどうなりますか、少々不可解なことがありまして、しばらく思案を重ねておるところでございます」
ベネディクトはあまり感情を揺らしていない顔でそう答えた。
「まさかお前に鍵って色恋沙汰ではあるまいな」
「それもまあ、わからないのです」
その言葉にペドロは目をむいた。
「わからないということは色恋沙汰になるかもしれないということか?」
「かもしれないということはならないかもしれないということですよ、ただいまは思案の時だと思っております」
「それはそれは、まことに可能性があるだけでも驚きだまさかベネディクトが」
「いくら何でも、それは言いすぎなのではないでしょうか」
クローディスが慌ててとりなす。
「そうですね、ただ虫の居所が悪かっただけかもしれない。あり得ないことが続きすぎましたよ」
「ベネディクト、何かあったなら相談しろ、友達じゃないか」
「ありがたいことだが、お前に相談してもどうしようがないということだけはわかっている。まずはおのれの心を覗き込まねばならない、それに人の手など借りられぬ」
クローディスは少々どころでなく驚いた。
この男がこんなにも神妙な顔をするなんて。
「本当に大丈夫か、どこか悪いのではないのか」
「気にするな、悪いとしても俺の身体だ、お前の身体が傷むわけではない」
「いや、まさか」
ベネディクトが水っとその場を立ち去った。
「やはり何事か効果があったのでしょうか」
恐る恐るクローディスが主にお伺いを立てた。
「あったのかもしれない、だとすれば今は悩ませてやればいい。それが恋というものだ」
「いいんでしょうか、これで」
いまさらながら主の悪ふざけに加担したことを悔やんだ。
「しかし、ベネディクトは少々しゃれ込んでいると思わないか」
「確かに、今日はいつになく髪の手入れはされていましたが。それに城下に床屋を呼んだらしい」
「そのうえ、あの香料は、少々張り込んだものだぞ」
クローディスはいまさらながらに良心の呵責に苦しんだ。
ビアトリスを誘導するのはヒローインの役目だが、あの嘘をつけない純真な女性にそんな人を欺くなどできるだろうか。
「うまくいくに決まっている」
主だけが上機嫌だった。




